ソウルの地下鉄、東大門駅近くのなにげない焼き肉店に入った。用事が終わったのは夕方の6時すぎ。ソウルに暮らす知人と一緒だった。
この日、僕が泊まっていたのは、益善洞(イクソンドン)に近い宿だった。周辺には店がぎっしりとあったが、多くが韓国人や欧米人のグループ客で埋まっていて、ひとりでは入りにくかった。そう知人にいうと、「じゃあ……」と、近くの店に入ることになった。目の前にあった店にふらっと入る感覚だった。
■ソウルに増えているタッチパネル注文の店、庶民派の焼肉店でも導入されていた
簡素な店内の庶民店だった。入口付近の席では、地元のおじさんの酒盛りがはじまっていて、うるさそうだったので奥のテーブルにした。店員は女性と男性がひとりずつ。どちらも韓国人ではなかった。知人が訊くと、女性はベトナム人、男性はネパール人だという。
「でも、注文はタッチパネルだから大丈夫でしょう」
知人はテーブル脇にとりつけられているパネルにタッチした。
「おッ、カブリサルがある。これ好きなんですよ。食べてみますか?」
カブリサルというのは、豚の希少な部位で、歯ごたえがたまらない……と知人は説明してくれた。そしてタッチパネルで注文。ビールも頼んだ。
以前、『最高のチキン~夢を叶える恋の味』という韓国ドラマを観たことがある。会社を辞め、夢だったチキン店を開くストーリーで、パク・ソンホ、キム・ソヘ、チュ・ウジェらが出演していた。そのなかでタッチパネルを導入する話が出ていた。調べると2019年のドラマだった。韓国ではコロナ禍前から、タッチパネル化がはじまっていたことになる。
飲食店に入り、注文をタッチパネルで行うスタイルは、接触を少なくする目的で広がっていった。コロナ禍が原因だった。日本を含めた多くの飲食店で採用されていった。僕の感覚では、その普及度でソウルはトップクラスを走っている気がする。テイクアウトの店でも、店頭にタッチパネルが設置されていることが多い。
ほどなくしてカブリサルが運ばれてきた。焼き鳥の「かしら」に似た食感で、なかなかおいしかった。ビールが進む。従業員が外国人でも、タッチパネルスタイルの注文だと、妙に安心できる。
タッチパネルのメリットは、多言語化が実現できることだった。事前にメニューをさまざまな言語に翻訳して用意しておけば、韓国語がわからない人たちでも簡単に注文ができる。この進化もソウルはかなり進んでいた。だいたい画面の右上にある言語のボタンをタッチすると、英語や中国語に次いで日本語が出てくる。僕もひとりで店に入るときは、タッチパネルの多言語化でずいぶん助かっている。
実際、このときも、ビールの追加は僕が注文した。言語を日本語に切り替え、飲み物をタッチすると、Cass、Kellyなどさまざまな銘柄が出てくる。知人に訊き、Kellyのボタンを押し、注文をボタンをタップした。すると厨房の方で音がした。しばらくすると、ネパール人の青年がKellyをもってきてくれた。
ソウルでは、注文はいつも韓国語ができる知人に任せっきりだった。しかし多言語のタッチパネルの登場で、申し訳ない……といった気分が少し軽くなる。