1時間ほどがすぎただろうか。店もそこそこ混みあってきていた。ふたりづれの日本人女性が入ってきたのはその頃だった。店員に案内されて、僕らの隣の席に座った。さっそくパネルをタッチし、相談をはじめた。詳しい内容まではわからないが、おそらく日本語の画面を見ているのだろう。注文が終わったようだった。
「日本の方ですか」
女性のひとりが声をかけてきた。僕は頷き、知人は韓国人だと日本語で伝えた。僕は日本人女性に、「この店はよくくるんですか」と訊いてみた。
正直、ソウルに詳しくない韓国客が入るような店ではなかった。客は全員、近所の人たちといった地元店である。特別なメニューがあるわけではない。日本語のガイドブックや探索サイトには載っていない気がする。彼女たちが頼んだのは、石焼ビビンバと冷麺だった。焼き肉もあれば、ビビンバもあるという庶民店なのだ。
「いえ、はじめてです。東大門で買い物の前に、どこかで食事をしようって、店を探していたんです。通りから窓越しに見ると、テーブルにタッチパネルがあるのがわかって。ここなら注文できるって、入ってみたんです。タッチパネルに日本語があって助かりました。昨日、入った店はタッチパネルはあったんですが、韓国語しかなくて……」
最近のソウルを見ていて、どう考えても観光客向けではないような店で、ときどき日本人を見かける。その理由はタッチパネルのようだった。 (つづく)

