数年前、韓国で「マラマッドゥラマ」という言葉が流行った。「マーラー味ドラマ」という意味になる。韓国テレビドラマのなかで、ドロドロの愛憎劇を描き、そこには社会性も加味される作品群……。刺激がある内容には批判もあったが、「ついまた観たくなる」ドラマをこう呼んだ。代表格は『ペントハウス』や『夫婦の世界』だといわれる。

■日本より先に韓国で流行っていたマーラータン、ソウルの専門店に行ってみる

『ペントハウス』は日本でも話題になった。イ・ジアキム・ソヨンユジンらが出演している。なぜ、この種のドラマが「マーラー味ドラマ」と呼ばれたかといえば、当時、韓国ではマーラータン(麻辣湯)がブームになっていたからだ。2018年から2020年あたりにかけてのことだ。

 そのマーラータンがいま、日本でブームになっている。2025年の『新語・流行語大賞』にノミネートされたほど話題を呼んでいる。

 マーラータンは中国の四川省に生まれた料理とされている。現地では麻辣湯の「湯」の漢字は「湯」の下に「火」と書く。この文字は「火傷するほど熱い」という意味だという。

 唐辛子の辛さに加え、しびれるような刺激の花椒(ホワジャオ)がたっぷり入る。あえて日本語にすると、「しびれ辛い」ということになるだろうか。この刺激がたまらず、癖になってしまっている人も多いという。そのあたりは2018年から2020年当時の韓国によく似ている。

 中国の四川省を訪ねたことがある人なら、その感覚はわかると思うが、庶民店に入り、漢字メニューを頼りに注文すると、この「しびれ辛い」に出合う確率は高い。四川料理として知られる麻婆豆腐や担々にしても、四川省で食べると、がつんと唐辛子の辛さと花椒のしびれが口中に広がる。なにげない麺料理を頼んでも、唐辛子と花椒。味のベースにこの2種類の香辛料があるようにも思う。

 おそらくそのなかにもマーラータンはあったのだと思うが、辛さとしびれの刺激に翻弄されてしまっていたのか、僕の四川省滞在にマーラータンの記憶はない。

 しかしこのマーラータンは、中国、そして韓国で手が加えられていく。味というより、その注文スタイルが人気を支えているともいわれる。日本で人気のマーラータン店の多くは、具材ビュッフェスタイルをとっている。好みの具材をとり、それを渡すとマーラータンになって提供されるというスタイルなのだ。それが楽しいという。

 そしてこのスタイルができあがったのが韓国と思っている人も少なくない。日本人のなかには、マーラータンは韓国料理と思っている人もいるという。

 しかし調べると、具材ビュッフェスタイルが誕生したのは北京のようだ。実際、上海に住む日本人にマーラータンの話を振ったところ、「麺料理のひとつでしょ。マーラータンって注文すると、なにも訊かれずに料理がでてきます。四川料理店にはよくある料理。あたり前の麺料理で、特別に人気があるわけじゃないですね」という返事が返ってきた。

 どうも北京流のスタイルのようなのだ。しかし北京にしても、具材を自分で選ばない店も少なくないという。つまり、具材を自分で選ぶビュッフェスタイルが生まれたのは北京だが、それが韓国で一気に広まったということらしい。

 ということは日本のマーラータンは韓国のスタイルを踏襲した可能性が高い。そして韓国同様、人気を集めていく……。