「エッ、なに、この値段」

 一緒に歩いたソウル在住の日本人の知人の声が聞こえた。

 3年ぶりにソウルの明洞。街はコロナ禍前には戻っていなかった。まだ3割ほどの店はシャッターを降ろしている。3年前には明洞を埋めていた中国人の姿がない。その分、ようやく戻ってきた日本人観光客が目立つ。

 しかしこの状況は、時間が解決してくれるような気がする。やがて中国人もやってくるだろう。それを待ちかねていたように店も開いていくはずだ。

 しかしソウル在住日本人の反応が少し不安になった。

 明洞のメイン通りの中央には露店が並ぶ。食べ物を売る店が多い。そこで買ったタイ焼きやアイスクリームを食べながら街歩き。コロナ禍前もそんな姿をよく見かけた。知人が立っていたのは、卵パンの露店の前だった。

「1個1000ウォンもする。以前は200ウォンだった記憶があるけど」

 1000ウォンは約100円。その先の露店で売られていたタイ焼きは1個5000ウォン、約500円もしていた。とんでもなく高いのだ。コロナ禍前の2倍、3倍どころではない。その先の露店ではロブスターが売られていた。怖くて値段も見なかったが、ここでロブスターを買ってどうすのだろうと思う。

 コロナ禍が収束に向かうなかで、海外旅行熱を冷ましているのは円安だった。しかし韓国のウォンは変動が少なかったから、韓国の場合、為替レートがもたらす割高感はそれほどではなかった。韓国の場合は物価高だった。

 ホテル代が急激にあがった。コロナ禍前は7000円ほどだったホテルは、確実に1万円を超えている。3000円程度だったゲストハウスも5000円。

 しかしソウルの露店の高さは異常だった。たしかにコロナ禍の間、露店を出していた店も商売にならなかった。外国人が来ないだけでなく、ソウルの人々への行動規制もあったから、店を出すこともできない時期もあった。それを一気にとり返そう……ということなのだろうか。しかしそれにしても露骨すぎる。「値をあげすぎ」と批判を浴びてしまいそうな値づけだった。それだけコロナ禍は厳しかったということなのかもしれないが……。