今回は韓国から離れてタイ。タイの韓国料理の話を。

 タイのバンコクには多くの韓国料理店がある。スクムビット通りという中心街には日本料理店が集まる一帯があるが、韓国料理も同じ。スムビット通りのアソーク駅近くには、韓国料理店だけが、そう50店以上がぎっしり並ぶビルもある。各階に焼肉の香りが漂っている。

 世界の街にはそんな一角あるものだが、紹介するのは、外国料理としての韓国料理ではない。タイ料理の世界に影響を与えた韓国料理の話だ。

■タイ料理に影響を与えた韓国料理、焼肉は独自に進化?

 タイにはタイ式の焼肉店がある。ムーガタと呼ばれる。299バーツ(約1200円)で食べ放題などといった看板を出す店も多い。その安さから若者や家族連れでにぎわっている。20年ほど前に登場した。その頃はヌアヤーン・ガウリー(韓国式牛肉焼肉)といっていたが、いつの間にかムーガタという名称に変わり、焼く肉も牛肉だけでなく、豚肉鶏肉、さらに海鮮まで加わり、一気に広まった。

 肉類や海鮮を焼くプレートというか鍋を目にしたとき、これは韓国料理? と思った。山型で斜めになったところで肉を焼く。韓国ではよく見かけた。肉を焼くとにじみ出る脂肪分の多い肉汁は斜面の窪みを伝って落ちていく。

 このスタイルのサムギョプサルも多かった。そして肉汁が溜まるところにキムチを置く。キムチに脂が絡まり、キムチの味が増す。この話は以前に紹介した。

 しかしタイ式焼肉は、この形をアレンジした。肉汁が溜まる部分を深く、そして幅をもたせ、そこにスープを入れるようにしたのだ。そしてそのスープ部分には肉ではなく野菜を入れる。こうして焼肉のプレートが鍋に近づいていく。これがムーガタだった。韓国にも同じようにスープを入れるスタイルもあるのかもしれないが、まだお目にかかっていない。

 韓国の山型プレートの裾にスープを入れるムーガタが広まった一因は、女性客に支持されたからだと思う。日本もそうだが、プレートや網で肉を焼くスタイルは、がっつりと肉を食べるイメージにつながる。若い男性好みの世界に映る。たしかにそこで野菜も焼くこともあるが、あくまでも主役は肉である。

 しかしタイ人、とくに女性の食べ方を見ていると、スープに大量の野菜を投入している。そして肉は2~3片載せる。そこから肉汁がスープのなかに溶け込むように落ちていき、コクを生む。そこには野菜が入っていて、女性たちはその野菜をとり、たれにつけて食べる。その食べ方を見ていると野菜が主役のように思えてくる。

 肉好きの女性は、焼肉として食べるのだろうが、「野菜もたくさん食べたから」という免罪符のなかで箸を運ぶ。

タイのムーガタ。いまやすっかり庶民料理として定着した