以前、このコラムでどんぐり料理の話をした。どんぐり料理といえば、韓国では「トトリムク」である。どんぐりを砕いて粉状にし、それに火を通して固めたものだ。「どんぐりこんにゃく」とか、「どんぐり豆腐」などと和訳されている。
しかしどんぐりは、食べた瞬間、どんぐりとわかる風味をもっているわけではない。どんぐりには、「貧しい時代、どんぐりで飢えをしのいだ」という暗い話もついてまわる。いつの間にか、その存在感は薄れつつあった。
■韓国の健康食、どんぐり料理をソウルで食べられる店は？
トトリムク料理をソウルの『木覓山房』というレストランで食べた。トトリムクと野菜を和えた料理だった。クリーミーなトトリムクで、その食感は楽しかった。しかしそのなかのトトリムクだけをとり出すと、少し返答に困った。健康食かもしれないが、味に特徴がない。
しかし韓国を訪ねる日本人は多い。どんぐり料理を食べた人は少なくないようだった。トトリムク以外の料理の名前が挙がってくる。トトリジョンというどんぐりのチヂミ、トトリミョンというどんぐり麺……。
そんなどんぐり料理を、ソウルでも食べることができないだろうか。ソウル在住の知人に調べてもらった。なかなかみつからなかった。地方都市……それも山間の小さな町の食堂しか検索に引っかかってこないという。どんぐり料理を伝えてくれた人も、山に囲まれた町の食堂や民宿で出合っているようだった。
半ば諦めていたとき、唐突に連絡が入った。『トトリガ』という店がどんぐり料理を出しているという。それも江南にあるという。トトリジョンもトトリミョンもあるようだった。
「どういう理由かわからないけど、検索ではなかなか出てこないんです」
その店に行ってみることにした。店名はトトリガ。訳すと「どんぐり家」。なんだかどんぐり料理専門店のように映る。
店は地下鉄の清譚駅の近くだった。大通りから脇道に入る。周囲は住宅と商店が混在するような一帯だった。
「ここか……」
それはソウルのいま風レストランの構えだった。一見、カフェのようにも見える。どんぐり料理というと、韓国の民族料理店のような雰囲気かと思っていたが、ずいぶん違う。
入るとすぐテーブルがあり、そこでサラリーマンが4人、箸を動かしていた。皆、麺を啜っている。あれがどんぐり麺？ その正面は厨房だった。中年女性が3人、忙しそうに手を動かしている。時刻は11時半。ランチの準備だろうか。
