接客専門のスタッフがいない雰囲気だった。厨房のなかにいた女性がメニューを手に現れ、左手に進むように案内された。進むと、通路の両側にテーブルが並び、すでに数人が座っていた。不思議な構造の店だった。

 壁に沿って陶器が並んでいる。店の知り合いなのか、陶芸家の作品を展示し、販売していた。通常のレストランとはなにかが違う。

 メニューを手にした女性が、厨房の前を指さした。そこには生野菜と目玉焼きが置かれている。自由にとっていいということだった。

「普通、セルフでとるのはキムチじゃない? ここは生野菜と目玉焼き……」

「生野菜のサラダバーっていえば欧米料理店でしょ。でもここは純然たる韓国料理

 コンセプトが違っていた。店名は「どんぐり家」だから、その料理を強調しているのかと思ったがそうでもない。

 テーブルにつくと、メニューを手にした女性がこう説明してくれた。

「うちの料理の素材は防腐剤を一切使っていないものを選んでます。それに砂糖も使いません」

 セールスポイントはそこらしい。中年女性4人で2年前につくった店だという。

 どんぐり……と勇んで入店したが、肩透かしの思いが脳裡をよぎる。しかしメニューを見ると、しっかりどんぐり料理が並んでいた。

・どんぐりを使ったゴマすいとん 1万5000ウォン

・どんぐりのチヂミ 1万5000ウォン

・どんぐりカルグクス 1万2000ウォン

 どんぐりづくしで3品を注文した。どんぐりビビンバやどんぐり餃子にも食指が動いたが。(つづく)

店内に展示されていた陶器。控え目で優しい色合いだった