IUとパク・ボゴム主演のNetflix配信ドラマ『おつかれさま』は、ストーリーだけでなく、一場面一場面が映画のように作り込まれている。それは小道具ひとつとっても同様で、たとえば登場人物が食べるものにもメッセージが込められている。(以下、一部ネタバレを含みます)
■Netflix注目作『おつかれさま』の時代背景、白米を食べるのが困難だった時代
オープニングのアニメーションをはじめ、『おつかれさま』には済州産エンドウ豆(ポリコン)が載ったごはんを食べるシーンがたびたび登場する。
ドラマ序盤の時代背景は1960年代から1970年代。韓国では米がじゅうぶんに行き渡っていなかったので、少ない米に麦や豆を混ぜて食べる「混食」がふつうだった。1969年から1977年の間は、毎週水曜と土曜の11時から17時は米で作った食べ物の販売が禁じられていたほどだった。
1970年代半ばに韓国を旅行した日本人から、釜山で寿司を頼んだら寿司飯が麦入りで驚いたという話を聞いて、気恥ずかしい思いをしたのを覚えている。
1953年の朝鮮戦争休戦後、我が国は世界最貧国だった。1965年には米食制限が法制化される。その頃はマッコリも米ではなく小麦で醸していたくらいだ。
1970年代になると、米国産の安価な小麦粉が大量に流入し、ごはんの代わりにククス(麺)やスジェビ(すいとん)を食べる人が増えた。日本の人にもよく知られているソルロンタン(牛骨と牛モツのスープ)に今でもククスが入っていることがあるのは、米が貴重だった頃の名残りだ。
韓国で米の自給自足が始まったのは1975年で、マッコリを再び米で作れるようになったのは1977年になってからだ。同世代の日本人の話を聞くと、1970年代後半から家庭にホットプレートが普及しはじめて、月に一度くらい家庭で豚肉や牛肉を焼いて食べていたという。当時の韓国と日本には生活水準に大きな差があったのだ。

■栄養価の高いエンドウ豆に込められた愛
麦ごはんや豆ごはんは韓国人の郷愁を誘う食べ物だ。今も家庭や大衆食堂では白飯の代わりに五穀米などが供されることがあるが、それは20年くらい前からから重視されるようになったウェルビーイング(健康志向)によるもので、米の代わりに麦や豆を食べていた時代とはわけがちがう。
火山灰性土壌の済州は、畑作はできるが、稲作には不向きだった。米の確保の大変さは内地の比ではない。済州ではエンドウ豆は混食のためというより、貴重なたんぱく源だったのだ。
