Netflix最新ヒット作『おつかれさま』(IUパク・ボゴムムン・ソリパク・ヘジュン主演)は、50代以上の韓国人に韓国現代史と自らの生きてきた道を振り返るような感慨をもたらした。いや、韓国人だけではない。韓流が巻き起こるずっと前、たとえば韓国が国際社会で存在感を示し始めた1988年ソウル五輪の頃から関心を持ち始めた日本人の筆者にとっても、自身と韓国とのかかわりの歴史を振り返る好機だった。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix『おつかれさま』11話、クムミョンの「キム・スヒがソ・テジに勝った」のナレーションとK-POPの始まり

 観る者を1960年代から2000年代初頭に引き戻してしまうのに効果的だったのが、このドラマでたびたび挿入された流行歌とニュース音声だ。

 11話に挿入されていたキム・スヒとソテジワアイドゥルが歌謡大賞を争ったのは1993年末のこと。旧来のトロット(韓国演歌)やバラードvs新興のヒップホップという時代を象徴する対決だった。

 今のK-POPにつながる韓国軽音楽の西洋的洗練は、ソテジワアイドゥルから始まったと言ってよい。メンバーの一人、ヤン・ヒョンソクはのちにBIGBANGBLACKPINKなどを擁するYGエンタテインメントを創業する人だ。

■『おつかれさま』12話でサンギル宅のテレビに映っていた平均視聴率45%のドラマは?

 12話ではサンギル(チェ・デフン)とヨンナン(チャン・ヘジン)夫婦の家のテレビにドラマ『砂時計』(1995年)が映っていた。1970年代から1990年代の激動の時代を財閥令嬢(コ・ヒョンジョン)とヤクザ(チェ・ミンス)と弁護士(パク・サンウォン)の三人を通して描いたもので、平均視聴率45%を記録した。この28年後に『マスクガール』の主人公を演じるコ・ヒョンジョンが初々しい。ヒロインのボディガード役として当時23歳のイ・ジョンジェも出演している。

『砂時計』は民主化運動で戒厳軍が市民を弾圧する実映像が初めて使われたことで話題となった。朴正煕(パク・チョンヒ)から全斗煥(チョン・ドゥファン)、さらに盧泰愚(ノ・テウ)と長らく続いた軍事独裁政権が終わったからこそ、実現できたことだった。金泳三(キム・ヨンサム)大統領は全斗煥(チョン・ドゥファン)と盧泰愚(ノ・テウ)の両前大統領を法廷に立たせ処罰した。韓国社会が大きく変わろうとしていることが外国人である筆者にも伝わってきた。

 当時、新宿歌舞伎町の韓国クラブでは、常連の韓国人駐在員たちの間でこのドラマがよく話題になっていた。駐在員のなかにはサムスンの社員もいた。有望な社員対象の遊学制度で日本に数年滞在しているのだが、彼らは生産活動をするわけではないので遊んでいるようにしか見えない。遊学制度とはのんきな会社だなあくらいに思っていたのだが、その5、6年後、筆者がトランジットしたウラジオストック空港内のモニターがすべてサムスン製だったことに気づき、その10年後には多くの日本人がギャラクシーのスマホを使っていた。

1990年代後半、ソウル・鍾路の大衆食堂の店内。壁に当時の人気俳優チェ・ミンスがモデルを務めたソジュのポスターが

■『おつかれさま』13話でクムミョンやウンミョンを苦しめた1997年末のIMF事態

 金泳三政権は軍事独裁政治の清算には成功したが、経済政策には失敗し、1997年末には通貨危機(IMF事態)を招くことになる。これが『おつかれさま』13話でクムミョン(IU)とウンミョン(カン・ユソク)の運命を大きく狂わせる。

 IМF事態を描いた作品というと、キム・テリ主演ドラマ『二十五、二十一』やキム・ヘス主演映画『国家が破産する日』が思い浮かぶが、『おつかれさま』の失職者たちの描写もかなり残酷だった。

 筆者は韓国がIМFに喘いでいる頃、韓国文化を日本に紹介する本づくりの仕事が増え、舞い上がっていたので、どれほど深刻な事態だったのかピンときていなかった。当時の不明を恥じるしかないが、はっきり覚えていることがふたつある。

 ひとつは、江南の焼肉店の店頭に「IМF価格 サムギョプサル1人分2000ウォン」と書かれた横断幕が掲げられていたこと。もうひとつは、東大門市場で洋服を売っている知人女性の横に、ある日から男性が居心地悪そうに座り始めたことだ。それはIMFで失職したご主人だったのだ。

1990年代後半に韓国で人気だった冷凍サムギョプサル。懐古ブームと低価格で、ここ数年脚光を浴びている