映画やドラマにおいて、役者に負けないくらい雄弁なのが小道具だ。なかでも登場人物が口にする食べものには製作者のメッセージが込められていることが少なくない。

 今回は日本で公開中の映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』で、ファン・ジョンミン扮する主人公ソ・ドチョル刑事の家族が、束の間の平穏を取り戻すシーンに登場した食べものを取り上げてみよう。

 本作は韓国で観客動員数750万人を獲得した大ヒットクライムアクションで、新人刑事役のチョン・ヘインは、今年の「百想芸術大賞」映画部門の助演賞にノミネートされている。チョン・ヘインはファン・ジョンミン主演の大ヒット映画『ソウルの春』にも短いシーンながら重要な役どころで出演していたが、本作では捜査班の同僚として、ファン・ジョンミンと強力タッグを組む。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』で疲れた刑事を慰める夜食、辛くてしょっぱいラーメン

 危機的状況を乗り越え、深夜、我が家に帰ってきた刑事のソ・ドチョル。妻と息子はもう寝ている。それに布団をかけてやる。妻は寝ぼけているが、どうやら夜食を気にかけてくれているらしい。

 ドチョルはリビングのテーブルでひとりラーメンをすする。妻はキムチやケランマリらしき卵料理も用意してくれたようだ。息子が起きてきた。少し食べろと言うドチョル。妻も起きてきてラーメンをひと口食べる。「あ~、しょっぱい」と言う。

 なんでもないシーンだが、全編刺激的なこの映画で、劇場の観客が心からホッとできる瞬間だった。

筆者が旅先で泊めてもらった家で出されたカニ入りラーメン

■家族の安らぎのシーンに登場する食べ物と言えば?

 既視感がある。筆者の頭に浮かんだのは、『ベテラン』の主演ファン・ジョンミンが麻薬王に扮したNetflixドラマ『ナルコの神』の最終回(6話)だ。

 海外に出稼ぎに行っている夫(ハ・ジョンウ)の帰りを待つ妻。彼女が切り盛りする軽食屋のまな板の上でキンパ海苔巻き)が切り分けられている。湿った海苔がつややかだ。海苔巻きを頬張りながら小学生の息子と娘が宿題をしている。そのとき、ガラス戸のベルが鳴り、スーツケースを引いた夫が帰ってくる。

 私たち韓国人にとって海苔巻きはありふれた食べ物だが、『ナルコの神』では家族愛、円満、幸福を象徴する小道具として、とてもいい仕事をしていた。