Netflixドラマ『隠し味にはロマンス』の物語は、兄ソヌ(ペ・ナラ)と弟ボム(カン・ハヌル)による大手食品会社の跡目争いも見どころのひとつだ。第3話では、創業者である母(オ・ミンエ)の「ボムは今、全州にいるそうね」という言葉に、ソヌが薄ら笑いを浮かべながら、「名目上は出張ですが、流罪のようなものですよ」と返すシーンがあった。

朝鮮王朝時代の流刑地

 流罪。流刑。韓国語では流配(ユベ)とも言う。日本では島流しという言葉が一般的だろう。ご承知の通り、朝鮮王朝時代の罪人に対する刑罰のことで、その罪の重さによって遠近が決められた。

 たとえば、漢陽(ソウル)を基準に考えた場合、忠清道の農村などは比較的軽い罪。それより重ければ当時は行き来が困難だった江華島。

 漢陽から遠く離れた全羅道南端の康津(カンジン)や朝鮮半島の北の果て咸鏡道などは重罪。済州や黒山島(全羅南道)などの離島はそこで生涯を終えるしかない流刑地だった。

今では農村を利用したファームステイなどが行われている康津も、かつては流刑地だった

■ドラマや映画の主人公たちの流刑地

 こうした流刑の悲劇は物語を大きく転換させるため、ドラマや映画にたびたび登場している。

 よく知られているのは、名作『宮廷女官チャングムの誓い』だ。濡れ衣を着せられたチャングム(イ・ヨンエ)と師匠のハン尚宮(ヤン・ミギョン)の流刑先は済州だった。ハン尚宮がつらい旅に耐えられず済州に着く前に絶命したシーンに涙した人は少なくないだろう。

 済州は今でこそ心浮き立つリゾート地だが、当時は海を渡る危険を冒さなくてはならない最果ての地だったのだ。

 済州市東部の朝天邑の海辺には、かつての流刑者や中央から派遣された役人が、陸地や都への復帰を願って北方向を望んだ東屋(あずまや)「恋北亭(ヨンプクジョン)」が再現されている。

済州で暮らすことになった人々が北(都)を恋しがった恋北亭