Netflix配信『ソウルの家から大企業に通うキム部長の物語』は中だるみや鑑賞疲れのない優れたドラマだった。大企業の役員昇進を目前にしながら、ひたすら転落し続ける主人公ナクス(リュ・スンリョン)の物語は、韓国人であろうが日本人であろうが、組織で働く者にとっては身につまされる場面の連続。

 ナクスと少しでも重なる部分がある視聴者は、たびたび喉元に刃物を突き付けられるような気分になったはずだ。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix『ソウルの家から大企業に通うキム部長の物語』見どころ、一人の人間が丸裸になるとはどういうことか?

 本作のテーマは、「企業人が自尊心という名の足かせから解放され、丸裸になるとはどういうことなのか?」だったと思う。

 劇中で役員昇進の道を断たれたナクスは、左遷、一発逆転のための投資、メンタル汚染、いくどもの転職などを経て、少しずつ少しずつ鎧を脱いでいくのだが、大企業の部長職という栄光の記憶がじゃまをして、なかなか思い切った選択ができない。

 そこにもどかしさも感じるが、企業で一定程度の役職を経験した視聴者ならナクスに同情してしまっただろう。そのあたりの描写が大変リアルで、見せ場のひとつでもあった。

サムギョプサルとLAカルビが象徴するもの

 メリハリのあり過ぎる喜怒哀楽を経験して、しがらみから自由になり丸裸に近づいたナクスの心象風景を表す場面として印象的だったのは11話、仕事のあとに同僚とともにサムギョプサルを食べる場面だ。

 石板(トルパン)の上で焼かれる豚肉キムチ、ジャガイモをカメラは真俯瞰から捉える。副菜のポテトサラダ、生ニンニクと合わせ味噌、ワサビ。夢中で食べるナクスが肉を二人前追加する。同僚が〆のチャジャンミョンを催促する。

 心が軽くなったときに食べるサムギョプサルやチャジャンミョンはさぞかし美味しいだろう。こんなときはヘルシー志向などどこ吹く風だ。

『ソウルの家から大企業に通うキム部長の物語』主人公、ナクスの解放感を象徴したサムギョプサル