食通の人気歌手ソン・シギョンは、Netflix『隣の国のグルメイト』の韓国側ホスト役を通して、韓国料理が赤くて辛いものだけではないことをじんわり訴えているようで大変興味深い。これまでも平壌冷麺、カルグクス、スンデクッ、しじみ汁など繊細な味わいの食べ物を取り上げている。
同番組シーズン4の第4話では、日本側ホストの松重豊を連れて統制の厳しい板門店近くまで出向き、大豆を使った多彩な料理を味わった。
■韓国料理らしからぬ(?)大豆料理の繊細さ
ソン・シギョンが松重豊を案内したのは、坡州市のDMZ(非武装地帯)近くにある「チャンダンコンマウル食堂」。
お腹を空かせて席に着いた松重豊が、物足りなさげに「動物性たんぱく質がほしい」と言い出したことからもわかるように、日本では大豆を使った料理を主菜として食べる機会は多くない。
味噌汁、豆腐、油揚げ、厚揚げ、納豆、おから……。これらは主菜ではない。湯豆腐があるじゃないかと言われそうだが、鱈、豚や鶏などの肉を足さないと物足りなく感じる人は少なくないだろう。
では韓国の大豆料理はどうだろう? テンジャンチゲ(味噌鍋)、チョングッジャン(納豆鍋)、スンドゥブチゲ(純豆腐鍋)、ビジチゲ(おから鍋)、トゥブクイ(焼き豆腐)。夏はコンククス(すりおろし大豆のスープ麺)もある。日本よりは主菜クラスが多そうだ。
■大豆の味や香りと向き合う好機
筆者は数年前、番組でソン・シギョンと松重豊が食事した「チャンダンコンマウル食堂」に行ったことがある。自主的にではない。ソウル市主催の招待旅行で安保観光(南北分断の歴史学習)のあとに昼食をとったのだ。
このときは欧米やアジアのインフルエンサーたちといっしょに大豆料理を食べたのだが、彼らの反応は大きくなかった。欧米では豆腐が健康食、美容食として人気があるせいか、一部の女性は喜んでいたが、肉を恋しがる松重豊を気づかってソン・シギョンが頼もうとしたチェユクポックム(豚肉の甘辛炒め)に、積極的に箸をのばす人のほうが多かった。
考えてみると、筆者も韓国と関わるまで、あらたまって大豆本来の味や香りと向き合う機会はあまりなかった気がする。納豆は大豆そのものだが、醤油と和辛子で味をまとめてしまうし、味噌汁は空気のような存在だからだ。
ソン・シギョンは豆腐チヂミ(店のメニュー名)を「豆腐ステーキ」と呼んでいたが、ステーキという言葉には “ごちそう” 感があるので、豆腐を副菜扱いしがちな日本人には「豆腐をステーキと呼ばれてもなあ……」という感じではないだろうか。