入ってみることにした。隣に4人連れのグループがいた。男性3人、女性ひとり。男性のひとりが、手にビニール手袋をはめ、ひとつの料理を混ぜ合わせていた。日本語でいえば「和える」ということなのだが、皿いっぱいの料理を大胆にざくざくと……。和えるより混ぜるというほうがぴったりくる。
「あれはコルベンイムッチム。コルベンイはつぶ貝、ムッチムは和えるっていう意味です。つぶ貝とスケトウタラなどの和え物なんですが、一般的にはそうめんも一緒に和える。彼はいま、コルベンイムッチムとそうめんをビニール手袋をはめて和えてるんです。甘辛味でビールやソジュに合う。注文します?」
鍋料理店かと思っていたが、思わぬ伏兵が現れたという感じで戸惑っていると、知人はこういった。
「コルベンイムッチムはそこそこボリュームがあります。つぶ貝鍋の〆には麺を入れることが多い。僕らはふたりだけだから、コルベンイムッチムと鍋と麺というのはちょっと無理。数人のグループならちょうどいいんですけどね。僕らは食べきれないと思います。コルベンイムッチムか麺かを決めたほうが」
コルベンイムッチムにもそそられたが、貝鍋の〆に入れる麺料理が絶品ということを僕は知っていた。ワンシムニの貝の鍋の〆で食べる麺は、やや辛みのあるスープに貝の風味が入り込み、なんともいえない味になるのだった。
鍋と麺の方向にした。まず鍋を注文した。麺は途中でも頼めるからだ。つぶ貝の鍋は3万8000ウォン(約4000円)。そこそこの値段だが、グループで頼めばそれほどでもない。いまのソウルでは、メインの料理が5万ウィンを超えることは珍しくない。3万8000ウォンという値段は良心的といってもいいのかもしれない。
それがシンノンヒョン界隈の店の魅力だった。江南は高いというイメージがあるが、シンノンヒョンはそれほど高くはないのだ。江南で働く人たちが夜、ここに集まる理由だった。
しばらくすると、つぶ貝の鍋が出てきた。ワンシムニの鍋とは違い、丸型。日本の土鍋に似ていた。そこには大粒のつぶ貝がごろんごろんと入っていた。(つづく)

