日本人のソウルの人気エリアは、漢江の北側の明洞周辺から南側の江南に移りつつあった。しかしひと口に江南といってもそのエリアは広い。中心街は江南大路に沿って広がっていた。地下鉄の駅でいうと江南駅からノンヒョン(論●、●の漢字は「山」へんに「見」)駅あたりまでだ。その途中にシンノンヒョン駅がある。

■江南エリアの繁華街、食事するならシンノンヒョン

 江南というと江南駅に連想が飛んでしまうが、空港からのアクセス、そして周辺の飲食店の密度からいうと、シンノンヒョンを中心に考えたほうがよさそうだった。

「江南駅周辺はどちらかというと買い物の街。食事だったらシンノンヒョン」

 これはソウルっ子に共通した江南感だった。

 韓国バラエティ番組に『シンノンヒョン2』がある。これは人気K-POPボーイズグループのU-KISSが江南周辺のグルメなどを紹介するバラエティ番組で、そのなかでもシンノンヒョンが登場していた。

 飲食店はシンノンヒョン駅の東側の通りに集まっていた。そこからのびる坂道の路地にも店が並ぶ。夜になると賑わうという。

 ソウル在住の知人とこの街を歩いてみた。メインは夜だが、昼にランチ営業している店もいくつかあった。そのなかで、砂糖を使わない料理をアピールする店で昼食もとった。

 しかし一気に人が集まってくるのは、会社が終わってからだ。江南周辺で働く人たちがこの一帯に足を向ける。その人の流れに乗るように、夜、再びシンノンヒョンに向かった。

 風景は一変していた。店のネオンがまぶしいほどに輝いている。昼より密度が増したような気にもなる。

夜になったシンノンヒョン。昼より明るい?

 知人と店頭のメニューを眺めながら歩いてみた。

「ここ、どうですか。つぶ貝の店。サラリーマンが好きそうな店ですよ」

 貝料理といえばワンシムニ(往十里)駅周辺が知られていた。僕もそこで何回か貝の鍋料理を食べた。その鍋は長方形で辛みを加えたやや白濁したスープが入っていた。そこにさまざまな貝を投入する。ソジュが合う料理だった。客はどちらかというとおじさんが多かった。ワンシムニはそういう街でもあった。

 しかしこの店は貝のなかでも「つぶ貝」に絞っていた。外からなかをのぞくと、席は8割ほど埋まっていた。30歳代のサラリーマンの4~5人のグループが多い。そこには女性も加わっている。客層もワンシムニとは違う。会社の同僚なのだろうか。その日は土曜日だったのだが。

シンノンヒョンのつぶ貝料理の店。外観も庶民的だ