ワタリガニの醤油漬け……カンジャンケジャン。ソウルでは高級料理の部類に入る。最近のソウルの物価高のなかでは1人前5万ウォン(約5360円)を超える店は珍しくない。
そんななか、安い食堂を探していると、「カンジャンケジャン食べ放題、3万9000ウォン~」という店を目にした。日本円で4200円ほど。これは安いかもしれない、と韓国人の知人と出かけた。
■ソウルのカンジャンケジャン食べ放題店、注文するメニューと食べ方に迷う
地下鉄の東大門歴史文化公園駅から歩いて4、5分。日本人が泊るホテルが多い一帯だった。店の看板にも日本語が躍っていた。
食べ放題だから注文は簡単だと思っていた。しかしテーブルにつき、メニューを見たとき、そうでもなさそうな予感がした。僕の目を惹いた食べ放題は扱いが小さく、むしろ定食やサイドメニューにスペースを割いていた。そして同行韓国人が眉間に皺を寄せたのは、食べ放題というのはワタリガニのオスということだった。
カンジャンケジャンに詳しくない僕は、ワタリガニのオスとメスの区別がついていなかった。しかし同行した韓国人は、「カンジャンケジャンといったらメスでしょ」と譲らなかった。しかしそこにこだわると、食べ放題ではなくなってしまう。
「これにしませんか」
知人はメニューを指差した。それはメスカニ定食だった。メインはメスカニのカンジャンケジャンである。生エビの醤油漬け、ビビンバがつく。これにキムチとムール貝のスープの食べ放題、マッコリも飲み放題もついている。料金は1人前3万6000ウォン。約3860円。お得な気がしたが、メスカニのカンジャンケジャンは食べ放題ではない。
カンジャンケジャンのメスとオスの違いがはっきりわからない僕は、どことなく食べ放題にこだわりたい気分はあった。しかし韓国人の知人は、メスにこだわっている。こういう場では、やはり韓国人の舌に従うべきのような気がして、メスカニ定食に首を縦に振った。
従業員は、料理をキャスターつきのトレーに載せて運んできた。ひとつ、ひとつテーブルに並べていく。なかなか豪華な韓国料理のごちそうらしいテーブルが整っていった。カンジャンケジャンにはオレンジ色の卵がはっきりと見えた。
料理がテーブルを埋めたが、メインはカンジャンケジャンである。知人はそこにご飯を入れ、たれを加えて混ぜている。そしてそれをひとくち口に運ぶ。満足そうな笑みがこぼれる。
「やっぱりメスですね」
僕もそれに倣おうと思ったが、箸が止まった。カンジャンケジャンにご飯を入れる前に躊躇してしまう。メスのカンジャンケジャンは卵があって、それがコクを生むという。それなら、カンジャンケジャンをそのまま食べてみたい。ご飯など入れたくはない。