Netflix配信の日韓グルメ番組『隣の国のグルメイト』シーズン5の11話は、人気歌手ソン・シギョンが、日本人女優の三吉彩花をソウル南西部にある永登浦(ヨンドゥンポ)区のサムゲタン専門店に案内。食前の高麗人参酒、副菜のキムチ、生の唐辛子とともに、エゴマ入りのサムゲタンで鶏丸ごと一羽を堪能した。エゴマはその油や種で作ったタレがマッククス(混ぜそば)などに使われる最近人気の食材だ。
■1980代末、韓国の鶏肉料理のなかでもっともインパクトがあったサムゲタン
韓国の鶏肉料理は今でこそ、ソウル名物タッカンマリ、『星から来たあなた』や『エクストリーム・ジョブ』で注目されたフライドチキン、リュ・スンリョン主演の同名ドラマに登場したタッカンジョン、冬ソナの舞台である春川名物タッカルビなど、日本からの旅行者の視野に入る選択肢は多い。
だが、筆者が初めて韓国を旅した1980年代末、もっとも存在感があった鶏料理はサムゲタン(参鶏湯)だった。「タン(湯)」は韓国語でスープや鍋を意味する。
筆者が初めて食べたのは1989年、明洞の専門店だった。以来、好物となり、東京・麻布で1985年に開業した専門店「グレイス」や、サムゲタン発祥地説もある北朝鮮の開城(ケソン)でも食べた。
鶏が丸ごと一羽入った鍋を初めて見たときは本当に驚いた。ぐらぐら煮立つ汁は飛沫が鍋から飛び出すほどで、しばらく待たないと三吉彩花のように「熱っ!」となる。
サムゲタンの匂いを薬っぽいと言う人もいるが、筆者には幸せな香りにしか思えなかった。副菜として生ニンニクのスライスが添えられていたが、当時はニンニクの生食に抵抗があったので、煮立っているうちに汁に投入した。溶けているからわからないが、サムゲタンには元からニンニクが大量に使われていることはあとで知った。
当時はサムゲタンを頼むと、おちょこに入った高麗人参酒が自動的に添えられた。食べ物に無料で酒が添えられるという破格のサービスに感動する。この酒は、「今から健康によいものがどんどん身体に入っていきますよ」と知らせる役目を果たしている。ひと口飲むと、土のような香りがノドを通り、鼻を抜けていく。育った土地がしばらく痩せてしまうといわれるほど強い高麗人参の地中エネルギー吸収力を信じてキュッと飲み干す。