ソウルの人気エリアである聖水洞(ソンスドン)の公園「ソウルの森(ソウルスプ)」は、韓国ドラマのロケ地としても有名なスポット。人気を支えているのは、自然公園としての魅力に加えて、その北側の道に沿って連なるカフェやベーカリーのようだった。
晴れた1日、ソウルの森に出かけた。北側のカフェ・ベーカリー通りでパンを買い、ソウルの森で昼食……と思ったのだ。
■聖水洞「ソウルの森」北側にあるカフェ・ベーカリー通りで人気のパンを購入
訪れた時(4月)は運が悪く、ソウルの森の中心エリアは、博覧会準備のために封鎖されていた。中心エリアの外周道路を歩いて北側に出た。博覧会準備のための封鎖といっても、その外側には遊歩道や鹿の飼育場などもあった。その周辺にはベンチも多く、ベーカリーで買ったパンを食べる場所は多かった。
ソウルの森北側のカフェ・ベーカリー通りを歩いた。ベーカリーが目立った。カフェのなかにも、店頭にパンを並べる店もある。ちょうど昼どき。韓国人に混じって欧米人も店頭でパンを眺めている。皆、買ったパンをソウルの森で……と考えているようだった。
ベーカリーやカフェに並ぶパンは多彩だった。日本だったら定番サンドイッチなどの共通メニューが並んでいることが多いが、この通りのパンは同じものがほとんどない。欧米人向けにパンや挟み込まれた具材の英語説明がある店が多かった。食材の英語は多岐にわたり、わからないものも多い。ベーカリーの店頭で立ち尽くすことになる。
「ソウルのパンはこんなにも多彩なのか……」
このバラエティーがソウルの森の北側通りの人気を支えているのかもしれなかった。
ソウルを訪ねはじめた頃、パンへの興味はまったくなかった。ソウルの朝といえば、お粥やスープだと思っていた。情報を頼りに朝、明洞のアワビ粥の店に出向くと、日本人観光客が列をつくっていたこともあった。
二日酔いの朝に食べるというスープ、ヘジャングッの店には何回か入った。ソウルに知人もできてきていた。となると、夕飯はソジュという世界になる。ソジュはアルコール度数が20度前後もある。それをストレートで飲む。翌朝は二日酔いということが多かった。
ソウルのパンに出合ったきっかけは、フィギアスケート選手のキム・ヨナだった。彼女は韓国だけでなく、日本でも人気のスケーターだった。彼女が2008年から2009年にかけてベーカリーチェーンのPR役を務めていた。彼女が商品企画にも加わった「キム・ヨナパン」が話題にもなっていた。そのチェーンの前にはキム・ヨナの等身大看板があった。店もみつけやすかった。
そこで僕は、韓国の食にしっかり組み込まれているパンの世界を知ることになる。その後、ソウルではカフェブームが起き、パンを口にする機会は一気に増えた。
米や麺という主食の世界に、パンが入り込んできたのだが、何回か口にしていると、「なにかが違う」という感覚をもつようになった。日本のパンは主食感が強い。カフェの朝メニューなども、食パンやフランスパンなどパンそのものがあり、卵やベーコン、野菜などがその脇に盛られて出てくることが多い。ある意味、欧米風でもあった。
しかしソウルのパンは、パンそのものが一品になっていることが多い。主食と副食の間の微妙なポジションに位置するパンなのだ。パンそのものに味を加えたり、さまざまな具が入ったパンが人気を集める。
ソウルの森の北側の通りで目にするパンもそうだった。とれもしっかり手が加えられている。ひとつのパンで完結するような気迫がある。ソウルの森のベンチで食べるのは、そのほうが好都合だった。日本のテイクアウトとなると、具を食パンで挟んだサンドイッチや総菜パンの世界が主流になり、バリエーションが少ない。
一軒のカフェに入り、店頭に並んでいたソーセージパンとガーリック塩パンを買った。その近くにあった手づりパイの店でトマトミートのタコパイも買ってみた。
それをソウルの森のベンチで頬張ってみる。まず、ソーセージパン。ひと口噛んで、「おやッ」と思った。パンにたっぷりのバターがしみ込んでいるのだ。そしてソーセージの周りにはたっぷりのカツオブシがまぶしてある。日本人にはない発想だった。