ソウルの東大門駅近くの地元の人向けの焼き肉店。観光客には縁がなさそうな店だったが、そこで日本人女性のふたり連れに会った。店に入った理由はタッチパネルだった。ガラス越しに店内を眺め、タッチパネルがテーブルに設置されているのを目にしたからだ。「ここなら韓国語がわからなくても注文できるかもしれない」。そう思ったという。
■韓国語ができなくても注文できる飲食店のタッチパネル、メリットと課題は?
この店で働いていたのはベトナム人とネパール人だった。韓国語はある程度話せても、韓国料理には詳しいわけではない。しかし客はタッチパネルで注文してくれる。オーダーは厨房に届き、店員は料理をテーブルに運ぶ。テーブル番号がわかるから混乱もない。
タッチパネルは韓国語のコミュニケーションを補う存在に進化していた。容易に多言語化が可能なシステムは、外国人と韓国人をつなぐツールになりつつあった。ソウルはアジアのなかでもその先端を走っている気がする。
ソウルではじめてタッチパネル注文を経験したのは2年ほど前だった。ソウル在住の日本人と一緒に、明洞の南側、南山公園の手前にある店に入った。アザミご飯で知られた健康志向のレストランだった。店に入ると、その入口にタッチパネルの機械が設置され、そこに数人の列ができていた。店内で注文かと思っていたから少し戸惑った。僕の前にいるふたりの女性の話し声が聞こえてきた。日本語だった。
彼女らに順番がきて、僕はその肩越しにタッチパネル注文を見ることができた。ひとりがパネルにタッチすると、画面が日本語に変わった。
「ほーッ」
そういうことだったのだ。これならなんの問題もない気がした。僕らの番になり、アザミご飯定食を選んだ。支払いはクレジットカードだった。右下にカード挿入口があった。
韓国では、日本発行のクレジットカード支払いには一抹の不安があった。これまで飲食店の支払いでカードが使えないことはなかったが、キャッシングではときどき拒否された。食事の後、店内で支払うときは問題はない。クレジットカードが使えなくても、現金で払うことができる。
しかし目の前にある注文タッチパネルは、カード専用である。受けつけてくれないと注文ができない。少し緊張気味にカードを挿入する。少し間があり、機械はカタッという音を残して、注文の控えとカードが出てきた。
注文の控えを手にテーブルについた。店員にそれを渡すと、ほどなくして料理が出てきた。タッチパネルの注文は、それが通ったところで厨房に伝わる。タッチパネル方式は店の回転も早めているようだった。
2回目にタッチパネルを使ったのは江南だった。オフィス街にあるレストランで、「砂糖、人工甘味料、小麦粉、化学調味料を一切使っていない」という触れ込みの店だった。江南のオフィス街で働く女性は多い。そんな客層を狙った店だった。
2階にある店で、階段をあがり、ドアを開けると右手にタッチパネル機械が設置されていた。日本語に変換できた。支払いのカード決済もスムーズだった。テーブルについたが店員がいない。厨房の前にカウンターがあり、その上を見ると電光掲示板があった。そこに番号が出ている。控えに印字された番号を確認してとりに行くというセルフサービスの店だったのだ。タッチパネルは人手不足対策でもあった。
その次は老舗の冷麺屋だった。そこにはイケメンの男性店員が何人もいたが、注文はテーブルに設置されたタッチパネルだった。冷麺を運んできた店員は、英語で食べ方を説明してくれた。