今でこそ韓国のサムギョプサルは肉質も多彩で、予算に応じて選ぶことができるが、2000年前後はまだ冷凍肉が主流だった。それもあって、サムギョプサルは牛の焼肉より明らかに格下感があった。そんななか、済州で食べる黒豚のサムギョプサル(または、五層のオギョプサル)だけは別格だった。
Netflix日韓美食バラエティ『隣の国のグルメイト』シーズン7の第10話で、済州在住のベテラン歌手イ・ジェフンがバラード歌手ソン・シギョンを連れて行った豚焼肉専門店は、そんな黒豚サムギョプサルの魅力をよく伝える店だった。
■済州産の黒豚は赤身の色が強く、食感はもちもち
済州は昔から養豚が盛んで、ハレの日には村人総出で豚をさばき、分かち合って食べる習慣があった。それは植民地時代、日本に船で渡って大阪に定着した在日コリアンたちの暮らしを再現した日本映画『血と骨』(監督:崔洋一、主演ビートたけし)に克明に描かれている。
済州産の豚肉のなかでも、とくに黒豚は早くからブランディングに成功していた。1999年、済州市の黒豚専門店に行ったとき、店主に「本物の黒豚だということを証明するために少し黒い毛を残しています」と言われたことをよく覚えている。当時は、白豚を黒豚と偽って出す店もあったのだ。「不信時代」という言葉が流行った頃である。
Netflix配信新作映画『もしもの愛』で話題の映画監督イ・チャンドンの長編デビュー作『グリーンフィッシュ』(1997年)では、地鶏のサムゲタンを頼んだ客(ムン・ソングン)に店員(オ・ジヘ)が「本物の地鶏です。さばくところを見て行ってください。今は不信時代ですから」と言うシーンがあった。
済州の黒豚の店で筆者の目の前に置かれたのは、男性のヒゲのそりあとのように黒々とした毛が皮に残された物体で、食欲を萎えさせるのにじゅうぶんなビジュアルだった。しかし、そのかたまりを火にかけると、黒いヒゲはあっというまになくなり、ホッとした。
『隣の国のグルメイト』で店の人がソン・シギョンとイ・ジェフンに説明していたように、黒豚と白豚には次のような違いがある。
まず、白豚より黒豚のほうが赤身の色が強い。そして、口にすると黒豚のほうがもちっとした食感があり、香ばしい。