■村ごと滅ぼす怨霊!? 祐天上人以前に「累」がヤバすぎる件

 さてさて、ここまで「祐天上人が~」「累の霊が~」と書いてきたが、ピンとこない方もいるだろう。

「そもそもなんで祐天上人が日本最強のエクソシストかちゃっちゃと説明せんかい!」

 との声も聞こえてくるので、ここで簡単にご説明しよう。

手前が菊で後ろが累。怨霊うんぬん以前にオーラが真っ黒。

お前はラオウかカイオウか!?

「四谷怪談」や「番町皿屋敷」と並び日本三大怪談のひとつにも数えられる「累ヶ淵」という怪談がある。大本になったのは元禄時代に実際にあった事件で(そう、つまりは「実話怪談」なのだ)、何十年にもわたる長い因縁と復讐の話なのでディティールは割愛するが、こんな話だ。

 醜く体が不自由だった少女「助(すけ)」が継父の与右衛門(よえもん)に殺された後、実の妹が生まれ「累(るい)」と名付けられる。だが、助に生き写しだったため、いつしか「助がかさなって生まれてきた」として「かさね」と呼ばれるように。その後、この累も醜いことを理由に夫・谷五郎に疎まれ殺されるが、殺人は隠蔽され村人も知らぬふりで累の祟りが爆発! 次から次へと後妻が不審死を遂げ、家運も傾く一方。

 やっと6人目の妻との間に「菊(きく)」という娘が生まれるが、寛文12年(1672)の春、13歳となったこの菊に累の霊が取り憑き、夫・谷五郎の罪状を暴き立て「後妻は全員取り殺したし、害虫になって畑食い荒らしてやった」と吼えまくる。

 その後、お経を唱えたり陀羅尼(密教の呪文)で累を祓って何度か菊から離れたりするものの、再び取り憑いては「やれるもんならやってみろ~!は~や~く私を成仏させろおおお」と大暴れ。もはや怪獣や災害なみの悪霊に、このままでは村が滅ぼされてしまうと泣きついたのが近郊にあった寺の学僧だった祐天だった。

■必殺技(?)を引っ提げエクソシスト祐天が遂に登場!

気合入りまくりの祐天と若干、腰が引け気味の累/ 歌川豊国・画

 怪談の「累ヶ淵」ではここであっさり成仏させるのだが、その元となった実録モノの仮名草子、いわば心霊事件ルポの『死霊解脱物語聞書(しりょうげだつものがたりききがき)』に拠れば、少年ジャンプのバトル漫画も真っ青の激アツ展開となる。

 般若心経や阿弥陀経、光明真言などを繰り出すも効果なし。「フフフ、わかっていたさ。やはりここは我ら(浄土宗)が称名念仏だ!」と必殺技(?)を繰り出す祐天。だが、渾身の念仏も累の霊は取り憑いたまま。そこで祐天、天を仰いで「阿弥陀如来よお釈迦様よ、念仏唱えれば極楽浄土へ行けるというのはウソだったのか! ウソなら仏教滅ぼしてやるぞ!!」と、なんと仏様を恫喝。

 シャウトしたことで気合を入れ直した(?)祐天は、今度は菊の頭をむんずと掴み「お~ま~え~が念仏唱えるんじゃああああ」と、今度は可哀そうな被害者・菊に活を入れる。取り憑いた人自身に念仏を唱えさせる作戦が功を奏し、遂にモンスター級の怨霊・累も姿を消した。