翌日は別の取材もあり、梨泰院にでかけた。街は暗く、沈んでいた。昨年のハロウィーンで起きた雑踏事故が梨泰院の街を覆っていた。

 開いている店は1割ほどだった。一軒の焼肉店に入った。焼肉といっても韓国式ではなく、中国スタイルの串焼き店だった。豚肉などのほか羊肉もある。それらを炭火で焼く。客は誰もいなかった。

 テーブルにつき、焼肉の串を何種類か注文した。小皿が出てきたが、ニンニク、唐辛子とピーナツだけだった。後は肉のたれ……。

「先週から小皿、減らしました。少しでも節約しないと」

 店にはオーナーひとり。従業員は雇っていなかった。

「ユン政権になって、コロナへの規制が一気に解かれた。それからはすごいお客さん。うちの前にもいつも列ができていた。従業員も3人雇って。このままいけば、1年ぐらいで借金が返せそうな気がしました。ところがハロウィーンの事故。梨泰院の店はそれから10日ほどして一斉に開いたんですけど、お客さんがひとりもこない。そこで多くの店が閉めてしまったんです」

 従業員には辞めてもらった。撤退は事情があって難しい。誰も雇わずに店を開けて、少しでも稼がないと……。小皿も減らすしかなかったらしい。

 コロナ禍からポストコロナへ。ソウルでは小皿料理に黄信号を灯す店が出はじめていた。

中国スタイルの肉の串焼き店。小皿が減って、テーブルの上も寂しい
夜の梨泰院。怖くなるくらい暗かった