東京から大阪に里帰りしている在日コリアンの友人と鶴橋駅前で待ち合わせし、 “大阪の永登浦” 、西成に向かう。最近は大衆酒場の宝庫として注目されているので、YouTubeでの擬似体験ではなく、一度は自分の目で見てみたい。
新今宮駅の北側に降り立った時点ですでに既視感があったのは、YouTubeでよく見ていたからだろう。
マンガ『じゃりン子チエ』の主人公の父親の名を冠したホルモン焼き屋で、いつもの飲み友だちと昼酒を飲む。たいした会話はしないのだが、場所が大阪というだけで、なんだか楽しい。いつもは表情豊かとは言えない友人からやけに人間味を感じる。
「東京は疲れますよ。高いビルばっかり。こっちで環状線乗ったでしょ? せいぜい4、5階建てですよ」
東京に来て14年にもなる男の言葉とは思えなかったが、彼の表情がいつになくやわらかかったのは、やはり故郷に帰ってきているせいだろうか。埼玉で生まれ埼玉で育った自分は一生味わうことのない感覚だ。
夕方、西成から天満に移動し、オンラインイベントや名古屋での講座の常連さんも加わって楽しく痛飲する。なぜ大阪では道のことを「筋(すじ)」と言うのか? なぜ、飴に「ちゃん」をつけたり、昆布に「お」や「さん」をつけたりするのか? 関西談義に花が咲く。
それにしても、大阪は大衆酒場の飲み代が安い。同じ1万円なら東京より大阪のほうが2割は多く濃く飲めるだろう。その夜はオムレツ焼きそばで〆るという念の入りようだった。
ソウル・釜山・大阪の旅は3年2カ月の喪失感を埋めて余りある楽しいものだった。この旅の余韻が酒のつまみになりそう、もとい、旅の余韻で仕事をがんばれそうな気がする。
(おわり)