ソウルの中心街にトンカツ通りがあると聞いた。何軒かの専門店が並んでいるという。韓国ではトンカツを「トンカス」という。トンカツ通りは、日本人が名づけた通り名なのかもしれなかった。韓国人に訊くと、「ソパロでしょ」という答えが返ってきた。ソパギルともいわれる通りで、韓国の児童文学者の名前からとられたという。
■韓国式トンカツの「トンカス」を食べに、南山のトンカツ通りへ
通りは南山の麓にのびていた。南山はソウル中心街の山。かつての南山ソウルタワー、いまはNソウルタワーがあることで知られている。Nソウルタワーはソウルのランドマークである。
地下鉄の明洞駅から急な坂道を10分ほど登った。Nソウルタワーに向かう南山ケーブルカーの駅が見えてきた。そこを左に折れる。南山を巻くようにつくられた車道に出た。ソパロだった。
観光バスやタクシーが何台も停まっていた。運転手が暇そうに車の脇に立っている。
ピンときた。
韓国のトンカスは、洋食店の定番料理になった。そのとき、肉が薄く、脇にご飯が添えられ、コーンスープがつくというスタイルができあがったようだ。それを引き継いだのがキサシクタンだという。キサシクタンというのは、タクシー運転手向けの大衆食堂だ。安くてボリュームがあるというトンカスは、運転手の感性に合ったのかもしれない。
ソパロはそんな通りに映った。Nソウルタワーに行く観光客を乗せてきたタクシーが、この周辺で待機する通りに思えたのだ。
通りに沿って歩いてみた。店が連なっている。トンカス専門店には見えない店もあるが、店頭のメニューのトップはトンカス。皆、この界隈にトンカスを食べにくるのだ。