■早起きと普門湖と『八月のクリスマス』
朝食ビュッフェが楽しみで、ツアー最終日の朝も5時に目が覚めた。早起きしてよくないことはひとつもない。旅先ではそれがいっそう実感できる。朝もやが少しずつ晴れていく普門湖をベランダから呆けて見ているだけで幸せだ。ホン・サンス監督の映画『気まぐれな唇』で、主人公(キム・サンギョン)がコンコードホテル(現在は廃業)のベランダから普門湖に浮かぶアヒル型の遊覧船を眺めるシーンと、前夜ともに過ごした人妻(チュ・サンミ)の置手紙を思い出す。
「自然現象はいつも私たちに冷たいけれど、あなたの寝顔と朝の空気がひとつになった。あなたの中の私。私の中のあなた」
朝食をとってもまだ集合時間まで余裕がある。ベッドに横になってテレビのリモコンをいじっていると、画面にシム・ウナの笑顔が映ってハッとする。韓国とキラキラという言葉の間にまだ距離があった時代の映画『八月のクリスマス』(1998年)だ。東海岸に面した街、慶州から真西に線を引いた辺りに位置する街、群山で撮影された作品である。この映画には携帯電話が登場しない。1998年2月のソウル滞在中、映画でも観ようと思ってファン・シネとシム・ウナの出演作の2択でファン・シネを選んでしまった不明を今も恥じている。韓国でも日本でもいい。この映画を一度は劇場で観てみたい。