Netflix人気作『ドクタースランプ』は、パク・シネ扮するハヌルとパク・ヒョンシク扮するジョンウが、タイトル通りスランプに陥り、慢性的ストレスにさらされる物語だ。
その中で、ハヌルの母親ウォルソン(チャン・ヘジン)の明るいキャラが大きな救いになっている。
■『ドクタースランプ』で姉弟に狙われたオンマの手料理
チャン・ヘジンは釜山出身の女優だが、『ドクタースランプ』で演じているウォルソンも釜山出身という設定だ。夫を早くに亡くし、シングルマザーとして長女と長男を育てた苦労人だ。釜山で食堂を切り盛りしたり、オムク(練り物)工場を経営したりしていることも、その敢闘精神と無縁ではないだろう。
第1話では、亡き夫の祭祀の供物にも倹約精神を発揮していた。韓国の激動の時代を間近に見てきた釜山人は、情緒より現実、感傷より打算、名分より実益を優先するといわれるが、彼女も例外ではない。ウォルソンが亡くなった夫より生きている娘や息子を優先したとしても誰も彼女を責められないだろう。
第7話では、ハヌルがジョンウのためにウォルソン手作りのミッパンチャン(常備菜)を持ち出す。作り置きしたはずの常備菜がないことに気づいたウォルソンは、迷わず息子バダ(ユン・サンヒョン/2002年生まれ)を疑い、以前、バダがガールフレンドのために料理を持ち出したことを蒸し返す。
このとき名前が挙がった料理に母の愛を感じたため、30年前に育ての母を亡くしている私はうるっときてしまった。韓国庶民の食生活を知るうえで重要なそのラインナップを紹介しよう。
■ハヌルがジョンウに食べさせようと、家の冷蔵庫から持ち出した3品
●ミョルチ・ポックム(ちりめんじゃこ炒め)
ちりめんじゃこと辛いシシトウを油とニンニクで炒め、醤油や水飴を加えて味を調えたもの。見た目は地味だが、じゃこの食感とシシトウのさわやかな辛さがアクセントになって、ごはんが進む。
韓国家庭の冷蔵庫の中にかならず入っていると言ってもいいメチュリアル・ジャンジョリム(うずらタマゴの醤油煮)は、タマゴが主で牛スネ肉やシシトウは従の存在だが、これはその立場が逆転したちょっと贅沢な常備菜。
ウォルソンが学習意欲のない息子バダではなく、優秀なハヌルのために作ったのは明らかなので、これがハヌルが愛するジョンウの口に入ったとしても文句は言えないだろう。
●オイソバギ(キュウリのキムチ)
オイキムチともいう。切り込みを入れて塩もみしたキュウリにヤンニョム(薬味)を練り込んだもの。画面でもちらっと映るが、チョンガンムウ(ミニダイコン)をいっしょに漬けることも多い。キュウリやダイコンの小気味よい食感と清涼感のあとにやってくるヤンニョムの旨味がたまらない。