Netflix配信『家いっぱいの愛』は、韓流ドラマによくある、プジャ(富裕層)とピンジャ(貧困層)を対比させたり、権謀術数をめぐらせたりする描写の少ない、家族をテーマにした良質のドラマだ。

 なかでも、かつては夫婦だったピョン・ムジン(チ・ジニ)とクム・エヨン(キム・ジス)、大型スーパーの社長である父ナム・チヨル(チョン・ウンイン)とその息子ナム・テピョン(ミンホSHINee)、ムジンとエヨンの娘ピョン・ミレ(ソン・ナウン/元Apink)とテピョンの三組が葛藤するシーンには見どころが多い。

 今回は飲食をともにすることで、登場人物どうしの距離が縮まった場面にフォーカスしてみよう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『家いっぱいの愛』ミレとテピョンが一緒に食べたマンドゥジョンゴル

『家いっぱいの愛』8話。登場人物の服装から見て、季節は10月後半か11月前半。落ち込んでいる様子のミレと偶然出会ったテピョンが夕食に誘う。

 店のテーブルで向かい合って座る二人。ガラス窓には「ソンマンドゥ専門店」と書いてある。ソンは手、マンドゥはギョウザの一種。つまり手作りギョウザのことだ。

 具の名前が冠され、コギ(肉)マンドゥ、キムチマンドゥなどと呼ばれる。日本では焼いたもの(クンマンドゥ)が一般的だが、韓国では蒸し煮したもの(チンマンドゥ)が多い。

 テピョンが頼んだのは、洗面器のような大きな鍋に入ったマンドゥジョンゴル。鍋にマンドゥとハクサイ、ニンジン、カボチャ、タマネギ、セリなどの野菜を入れ、牛肉でダシをとったスープで煮たものだ。

 ミレにエプロンをつけてやり、鍋からマンドゥを小皿に取り分けてやるテピョン。ミレの表情がやわらかくなる。20年くらい前までは筆者にもこんな経験があったが、とんとごぶさたである。

 韓国にも日本にもまだ夏が居座っているが、街の空気に少し秋や冬が感じられたときに食べたくなる。唐辛子をほとんど使わない淡泊なスープをすするとホッとする。

 韓国には「バンジュ(飯酒、伴酒)」という言葉がある。食前や食中に酒を飲むことだ。この料理にはこの酒という組み合わせもいくつかあるが、マンドゥに酒は必須ではない気がする。

 日本では焼きギョウザにはビールなのかもしれないが、韓国の蒸しギョウザに酒のつまみ感はやや希薄だ。唐辛子やニンニクの効いた料理でソジュをあおって気勢を上げる食文化と違い、マンドゥは心をおだやかにする食べもの。そんなイメージがある。

韓国のマンドゥ。三日月形の端と端をつないで丸くしたタイプ