松重豊主演・監督・脚本の邦画『劇映画 孤独のグルメ』が、日本で年明けに公開されてから14日間で興行収入6.2億円、観客動員44万人を突破して、ヒット中だ。

 本作に登場する韓国の食堂は、釜山の南に位置する慶尚南道巨済市の港で撮影された。松重豊演じる井之頭五郎と、韓国の人気実力派俳優ユ・ジェミョン扮する入国審査官がやりとりする印象的なこの場面では、韓国料理の干したスケトウダラのスープ「ファンテヘジャンクッ」とともに、焼きサバ「コドゥンオクイ」が登場する。

 そこで、今回は日本の人にも人気のある韓国の焼き魚「センソンクイ」を紹介しよう。

■『劇映画 孤独のグルメ』に登場する韓国の焼きサバとは?

 1990年代前半、ソウルに駐在していた日本人からよく聞いた言葉がある。韓国の食文化が今のように多様ではなかった当時、多くの日本人が、「大衆食堂で毎日のように焼き魚定食を頼んでいた」そうだ。塩をふって焼くのは日本と同じなので食べやすかったのだろう。

 韓国の焼き魚は、サバ(コドゥンオ)、太刀魚(カルチ)、サワラ(サムチ)などが一般的だ。日本の人が好きなサンマ(コンチ)もあるにはあるが、こちらはどちらかというと刺身の前菜というイメージが強い。

 一番人気となるとやはり『劇映画 孤独のグルメ』の五郎さんが食べていたサバだろう。

 また、韓国の焼き魚は、塩焼きのほかに、片栗粉をつけて鉄板で焼く揚げ焼きも一般的だ。

ソウルの大衆食堂で出前した定食2人前。そのうちのひとつが焼きサバ。焼きサバ定食を「コドゥンオジョンシク」という
釜山、チャガルチ市場で食べた焼き魚の盛り合わせ。韓国では片栗粉をつけて鉄板で焼く揚げ焼きも一般的

 焼きサバで筆者がまず思い出すのは釜山だ。今でも済州沖など近海で獲れたサバのほとんどが釜山の魚市場に集積し、韓国各地に運ばれる。

 釜山でサバが大衆に愛され始めたのは朝鮮戦争(1950~1953年)からの復興期である1970年代。半島北部から釜山に避難してきた人たちは休戦後、安価なピンデトッ(緑豆粉のチヂミ)でマッコリを飲んでいたが、それが復興とともに焼きサバに変わっていった。

 当時の焼きサバは今のように高価になる前のサムギョプサルのようなものだったのだ。