IUパク・ボゴム主演で、済州が舞台の話題作『おつかれさま』を視聴し始めた。劇場で観る映画と違って配信ドラマはつい仕事しながら、食事しながらのように「ながら見」になりやすいが、本作は冒頭から久しぶりに食い入るように見てしまった。

 それは主演二人の熱演もさることながら、1話で主人公エスンの母グァンネに扮した、実力派女優ヨム・ヘランの熱演のせいだ。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『おつかれさま』IU扮するヒロインの母役、苦労人の生活感がヨム・ヘランの真骨頂

『おつかれさま』と同じ時代の済州が舞台の映画『初恋のアルバム ~人魚姫のいた島~』で海女を演じたチョン・ドヨンコ・ドゥシムとも重なるが、ヨム・へラン扮するグァンネに求められたのはもっとリアルな島の女だった。苦労人を演じるのが上手い女優は何人も思い浮かぶが、ドキュメンタリーのような生々しい迫力を出せる女優なら、ヨム・ヘランが筆頭だろう。

 ヨム・へランは舞台出身で、『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』ではキム・ゴウン扮するヒロインの叔母役、『椿の花咲く頃』では『おつかれさま』同様にオ・ジョンセとの夫婦役などで、個性を発揮。『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』ではソン・ヘギョ扮するヒロインの復讐に協力する重要なキャラクター、『悪霊狩猟団:カウンターズ』では悪霊バスターズの1人を演じるなど、名バイプレイヤーとして存在感を放っている。

 Netflix配信ドラマ『マスクガール』では、オタク青年(アン・ジェホン)の母に扮し、2024年の第60回「百想芸術大賞」TV部門で助演女優賞に輝いた。ヨム・ヘランが演じた母親キョンジャは、全羅道の貧しい家庭に生まれ育ち、国家資格を持つ男と結婚したが、浮気され3年後に離婚。家政婦や食堂の下働き、ビルの清掃、タクシー運転手などを経て市場に食堂を開業して稼ぎ、息子をソウルの大学に入れた。しかし、夫に裏切られたトラウマに起因する息子への執着心が深刻な事件を引き起こしてしまう。

『マスクガール』のキョンジャや、今回の『おつかれさま』のグァンネを見て、同じ時代を娘として母として生きた女性の多くが身につまされたに違いない。ヨム・ヘランは、これまでにキム・ヘジャナ・ムニ、コ・ドゥシム、ユン・ヨジョンらが演じたやや美化された母親像とは違う、苦労人を生々しく演じた。

 ヨム・ヘランは1976年生まれだから、まだ40代だ。しかし、『マスクガール』では10歳しか違わないアン・ジェホンの母を演じるくらい老け役が堂に入っていた。全羅南道の南端に位置する麗水(ヨス)生まれなので、『マスクガール』の全羅道訛りは本物。『おつかれさま』の済州訛りも全羅道と共通性があるので操りやすかったはず。

『おつかれさま』と同時代の済州が舞台の映画『初恋のアルバム ~人魚姫のいた島~』の撮影地
2004年、済州で出会った現役の海女たち。背中にあるのは『おつかれさま』1話の冒頭に登場するテワック(浮き)