2025年「百想芸術大賞」の放送部門でも8部門にノミネートされているNetflix『おつかれさま』の主人公カップル、エスンとグァンシク(IU&パク・ボゴム、ムン・ソリ&パク・ヘジュン)は、韓国エンタテインメント史に刻まれる「ベストカップル」になることは間違いないだろう。
ここでは、日本で韓国の映画が注目され始めた1990年代後半から現在までの韓国映画「ベストカップル」15組の後編として、「不倫カップルと悲恋カップル」を取り上げる。
■道ならぬ恋、せつない恋に涙する!韓国映画「ベストカップル」悲恋編
日本で言えば『失楽園』に匹敵する、道ならぬ恋を描いた韓国映画の傑作。人妻(当時39歳のイ・ミスク/『涙の女王』)が自分の妹の婚約者(当時26歳のイ・ジョンジェ/『イカゲーム』)と恋に落ちる物語で、素は明朗快活なイ・ミスクらしからぬ静の演技が光っていた。
1990年代の韓国映画には珍しく「余白」の多い作品で、二人とも口数は少ないが、人妻の感情が静かに高まってゆき、やがて堰を切ったようになるところがハイライト。
大ヒット中の『おつかれさま』で成長したエスンを演じたムン・ソリが、脳性麻痺の女性に扮し、その演技力が高く評価された作品。刑務所から出たばかりの主人公(ソル・ギョング『ハイパーナイフ』)との心がざわつくデートシーンは落涙必至。
今は人々が憩う人工河川になっているソウルの清渓川の上にあった高架路や、まだ若者には見向きもされなかった鐘路3街の貴重な映像も楽しめる。
『冬のソナタ』の国際的な大ヒットを受けてのペ・ヨンジュン起用だったため、当時は映画としてまともに評価されなかった作品だが、『八月のクリスマス』や『春の日は過ぎゆく』を撮ったホ・ジノ監督の作品だけに、単なる不倫映画とは言い切れない繊細な表現が随所に見られる。
ヒロインを演じるのは『愛の不時着』のソン・イェジン。二人の逢瀬の場として使われた江原道の三陟 (サムチョク)の昔ながらの安旅館の風情も見ものだ。
恋人を平壌に残して脱北し、韓国の女性と結婚した男(チャ・スンウォン『最高の愛〜恋はドゥグンドゥグン〜』『私たちのブルース』)。それを知らずに自らも脱北して男に会いに来た女性(チョ・イジン)の悲恋物語。
繊細な演技には不向きと見られがちだが、逆にそれが不器用な脱北者役にハマったチャ・スンウォンの代表作だ。結婚相手役は1990年代のトップ女優、シム・ヘジン。『宮廷女官チャングムの誓い』のイ・ビョンフン監督が「大好きな映画」と言っていた作品だ。
■パク・ヘイル×シン・ミナ『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』(2014年)
韓国のありふれた街並みと古墳の美しい曲線が共存する慶州で、影のある男(パク・ヘイル『別れる決心』)と女(シン・ミナ『海街チャチャチャ』『損するのは嫌だから』)が出逢い、一夜を過ごす。
パク・ヘイル本来の持ち味である静ひつな演技と、シン・ミナらしからぬ抑えた演技が見もの。エンドロールで流れる歌「サラン(愛)」は、のちに『ハピネス』『終末のフール』『良くも、悪くも、だって母親』などに出演する名バイプレイヤー、ペク・ヒョンジンが唄っている。
