主演した『ソウルの春』『ベテラン』『国際市場で逢いましょう』の3作が観客動員1000万人超えを記録し、今や“国民俳優”との呼び声も高いファン・ジョンミン。韓国で観客動員5週連続1位を記録した彼の主演作『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』が日本で公開中だ。
ファン・ジョンミンはシリーズ前作『ベテラン』に続き、今回も重大事件を担当する刑事に扮しており、後輩役として『D.P.-脱走兵追跡官-』のチョン・ヘインが加わっている。韓国人筆者が注目したポイントを挙げてみよう。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』見どころ、エンタテインメントとしての絶妙なバランス
本作は2時間近い大作だが、前作同様、緩急のある演出で長さは感じさせない。美容クリニックを偽装した不法賭場をはじめとする “欲望都市” ソウルの描き方が鮮烈で冒頭から引き込まれる。
『犯罪都市 PUNISHMENT』のヒョン・ボンシク、『クロス・ミッション』のチョン・マンシク、『デビルズ・ゲーム』のシン・スンファン、『マイネーム:偽りと復讐』『梨泰院クラス』のアン・ボヒョンらが扮する悪役キャラも立っていて、地獄めぐりのジェットコースターに乗っている気分だ。
格闘シーンも凄絶かつ爽快で飽きさせない。それでいて、正義とは何だろう?と考えさせられたり、笑わせられたり、ホッさせられたりするシーンも入っている。
これらのバランスが少しでも崩れたら、炎上したり、ナンセンスと酷評されたりしかねない刺激の強い映画だが、ギリギリのところでエンタテインメントとして成立しているところが、韓国で750万人以上の観客を動員した理由だろう。その意味で、粗暴さの中の人間味という軸がブレないキャラを演じるのが上手いファン・ジョンミンの功績は大きい。
■注目の格闘シーン、形勢逆転!パッチギ(頭突き)の役割
格闘シーンの白眉は、敵役に両腕をロックされたファン・ジョンミンが渾身のパッチギ(頭突き)で窮地を脱するシーンだ。韓国人がいつから頭突きにカタルシスを感じるようになったのかはわからないが、その要因のひとつは、1960年代から70年代にかけて日本や韓国で活躍したプロレスラー、キム・イル(大木金太郎)だろう。
キム・イルは同じ朝鮮半島出身の力道山の弟子で、アントニオ猪木の兄弟子だ。力道山が外国人選手の反則攻撃に耐えに耐え、怒りが爆発したときに空手チョップを繰り出したように、キム・イルは頭突き一発で形勢を逆転することが多かった。それが、植民地支配からの解放後の政情不安や朝鮮戦争で疲弊した韓国人を大いに勇気づけたのだ。
キム・イルを知らない人は、ソン・ガンホの初主演作『反則王』の冒頭を見てほしい。覆面レスラーの猛攻にキム・イルがパッチギで活路を見出し、観客が沸く試合の実映像が挿入されている。
キム・イルの韓国での知名度の高さは、Netflix配信ドラマ『おつかれさま』第2話のエンディングを見ればわかる。
「母の初恋の相手はチェ・ペダルだった。そして、母はキム・イルだった」というナレーションが入るように、釜山の旅館の主人に正拳突きで立ち向かうグァンシク(パク・ボゴム)をチェ・ペダル(極真空手の大山倍達)に、その妻に頭突きをくらわすエスン(IU)をキム・イルにたとえていた。
