ソウルで刺身丼(フェトッパ)を出すマグロ料理店に、韓国人と一緒に入った。出てきた刺身丼は、キャベツなどの野菜の上にマグロの刺身、海苔などが入った丼とご飯が入った器が別々に出てきた。
韓国人の知人は、やおら刺身の上に酢が入ったコチュジャン、そしてごま油をかけ、がしがしと混ぜはじめた。僕はその動作を、呆然と見つめていた。そんなことをしていいのか。刺身に悪いではないか。
しかしここはソウル。100歩さがって、海鮮サラダと思うことにした。そして海鮮サラダとご飯を別々に食べるのだと想像した。
■ビビンバの国、混ぜ混ぜ食文化の韓国では刺身丼もよく混ぜて食べる!
しかし僕は韓国の混ぜ混ぜ食文化を甘く見ていたのかもしれない。知人はそこに横にあったご飯を投入してしまったのである。
僕は卵ご飯が苦手なタイプだ。ご飯とおかずは別々に食べたい。しかし知人はそんな思いを完全に無視し、投入したご飯と海鮮サラダもどきを混ぜ合わせはじめてしまったのだ。
それもなんの躊躇もない動作で、がしがしと混ぜはじめた。ときどき、ご飯を少しスプーンにとって味見。コチュジャン、ゴマ油をまた加え、がしがし……。
韓国人がなんだかとんでもない野蛮人に見えた。出てきたものをすべて混ぜ合わせてしまうのだ。これでは店が料理を出した意味がないのではないか。
しだいにご飯、マグロの刺身、野菜が混然となっていく様子を、僕は黙って見るしかなかった。
よく見ると、マグロの色が少し変わってきている。赤いコチュジャンを入れたのだから、刺身の赤みが増すのなから話はわかるが、なんとなく白っぽくなってきている。
「……?」
これはご飯の熱で、マグロが温まったからではないかと思った。生温かいマグロの刺身……。そう思っただけで、食欲はどんどん昇華していく。なぜ、こんなことをするんだろうか。僕は韓国人の味覚がわからなくなってきていた。
韓国料理のレベルは高いと思う。サムギョプサル、サムゲタン、カムジャタン……。しかし目の前の刺身丼はいただけない。口にしていないからなんともいえないが、混ぜる光景を見ているだけで、この店に入ったことを後悔しはじめていた。
知人は5分近く、徹底的に混ぜ合わせると、それをスプーンにとり、口に運び、満足げに頷いた。
「つくりましょうか」