ソウルの暑い1日、黒ヤギ(フンヨムソ)料理を食べにでかけた。黒ヤギ料理は、夏の疲れの回復に効果があるといわれている。しかし僕はヤギ料理の獣臭が苦手だった。ネパールや沖縄でその洗礼を受けていた。ネパールではカレー、沖縄ではヨモギであの臭い弱めようとしていた。しかし、それでもかなりの獣臭がした。

■ソウルで黒ヤギ料理の鍋に初挑戦、その味は?

 ソウルの黒ヤギ料理は臭くないと知人はいう。そのなはずはないと思った。普通のヤギではなく、黒ヤギでも臭うはずだ。

「騙されたと思って……」

 と押し切られてしまった。

 店に入って首を傾げた。店内にヤギの臭いがしない。ヤギはその脂肪が臭うといわれ、それが周囲に漂う。ネパールのカトマンズの下町では、路地にヤギ料理の店があることをその臭いが教えるほど強い臭いを発散していた。

 黒ヤギの鍋を注文した。1人前が2万ウォン。日本円にすると2130円ほど。けっして安くはない。

 土鍋のなかに黒ヤギ汁がぐつぐつ煮たたった状態で出てきた。そこで再び、首を捻る。たしかにその鍋からは、ヤギ肉の獣臭さがしない。チゲ鍋が出てきたような感覚である。

 店員の中年女性が、鍋の上から、灰色の粉をたっぷり振りかけてくれた。

「ゴマです」

 知人が説明してくれる。

「黒ヤギ鍋っていえばゴマ。その理由はわからないけど、必ず、多めのゴマをかけるんです」

 ゴマも夏バテには効くような気がする。

 黒ヤギ肉をネギと一緒にスプーンによそい、口に運んだ。

「ん?」

 本当にヤギ臭さがない。

 肉は柔らかい。トロトロといってもいいかもしれない。

ソウルの黒ヤギの料理店は、こんな街並みのなかにあった

 タイ料理のカオカームーを思い出していた。豚足料理である。肉は筋が見えるぐらいまで煮込まれている。豚の足肉だとはわからない。

 カオカームーはご飯の上に煮込んだ豚足肉を載せ、そこに肉を煮込んだときのたれをかける。店によってはご飯の脇に盛られる。高菜漬けなどの漬物が添えられ、好みでゆで卵を加えてもらう。

 店の人から、そのつくり方を聞いたことがある。その店に伝わる秘伝のたれに豚足を投入し、最低でも1日は煮込むのだという。そうすると脂分がすっかりと消え、肉だけになる。骨から簡単に肉が離れていくという。

 このカオカームーが好きというタイ在住日本人も多いという。子供も好きで、ある奥さんはこういっていた。

「豚足ご飯っていうと、子供が食べなくなってしまうので、うちではトロトロ肉ご飯って呼ぶことにしてます」

タイのカオカームー(豚足ご飯)。肉の食感が黒ヤギとよく似ている