韓国トッポッキという料理がある。トックと呼ばれる餅を、コチュジャンベースの赤いたれにからめて食べる。はじめて食べたのは釜山だった。だいぶ昔の話だ。まだ韓国に短期で行くにもビザが必要な時代で、航空券も高かった。僕は下関から関釜フェリーに乗って韓国に向かった。それがはじめての韓国だった。 

■韓国人に愛されるトッポッキ、ソウルのトッポッキタウンに行ってみた

 釜山の街を歩いていると、歩行者天国のような通りがあり、そこにあった屋台に人だかりができていた。韓国の料理の知識はほとんどなく、見るものすべてが新鮮に映る旅だった。

 人だかりの屋台をのぞくと、赤いたれのなかに白い棒状の物体がごろんと入っていた。好奇心も手伝って食べてみた。それが初トッポッキだった。その辛さに戸惑った記憶がある。最近になって知ったが、釜山のトッポッキはソウルのそれとは少し違うようだった。

 釜山のトックは太くて長いのだ。教えてくれたのはNetflix配信グルメバラエティ隣の国のグルメイト』だった。韓国人歌手ソン・シギョンが、日本の俳優とともに両国の料理を探訪する番組である。ソン・シギョンと松重豊が釜山を訪れた回で、釜山のトックが紹介されていた。僕がはじめて口にしたトッポッキは釜山流だったはずだ。太いトックを頬張ったと思う。

 釜山トッポッキの印象は、小腹満たしにしてはかなりボリュームがあるということだった。かといって夕飯にはならない。どこか中途半端な食べ物という記憶がある。

 今回、ソウルの新堂洞にあるトッポッキタウンを訪ねたのは夕暮れどきだった。夕食が目的である。ソウルの人たちにとってのトッポッキの位置を知りたくて、韓国人のお知人にお願いして、トッポッキタウンに向かった。そこで目にしたのは、7~8軒あるトッポッキ店の前にできた列だった。

「こんなに人気なんだ」

 そう知人にいうと、「若い人が多いですね。トッポッキは安いから」という返事が返ってきた。そういわれて列を見ると、数人の男の子のグループやカップルが目立つ。

「あそこはDJが入ることで知られたトッポッキの店。その向かいにあるのが、トッポッキ鍋を考案した元祖店です。ほかの店は規模が小さいけど、それぞれ味に特徴があるようですよ」

 せっかくだから……と元祖店の列につくことにした。店頭の看板には、トッポッキ鍋を考案した女性の大きな顔写真が掲げてある。元祖店であることをめいっぱいアピールしていた。

 列につきながら店内をのぞく。ほぼ満席である。テーブルを囲んでいるのは若者が多い。ソウルで鍋の店というと、テーブルには空になったソジュ(焼酎)が並んでいることが多い。

 しかしこの店は、お茶のような飲み物を飲んでいる人が多い。ビールを飲んでいる人は少ない。酒が入ると、客は長居するようになる。回転が悪くなる。しかしここは少し違う。

 はたして列も少しずつだが進んでいく。30分ほど待って入店することができた。

 メニューを眺めた。トッポッキ鍋は1万7000ウォン、日本円で約1860円。ふたりなら十分の量だという。物価がじりじりあがるソウルでは安い鍋料理だった。

 鍋の具は餃子、練り物、トックがメイン。そこにネギやキャベツが入る。はチョルミョンかインスタント麺から選ぶスタイルだった。チョルミョンは小麦粉とでんぷんからつくる麺でコシが強い。食べやすさを優先させてインスタント麺を選んだ。

 隣には若いカップルが座っていた。トッポッキ鍋には慣れている様子で、卵や練り物などを追加注文していた。

 ほどなくすると、すでに半分ほど煮込まれた麺が運ばれてきた。事前に用意されていたかのような早さだ。赤みの強いスープはどろッとしていて、テーブルの上でさらに煮込んでいくと、別府のどろ湯のように気泡がぷつ、ぷつとあがってくる。 

鍋からスープが飛ぶ? 各テーブルには前かけが用意されていた