Netflix韓国ドラマエージェントなお仕事』3話に実名で登場したベテラン女優、キム・スミは料理上手として知られている。彼女は劇中、2度目の所属事務所訪問の際も、世話になっている人たちのために手作りのお惣菜を用意していた。

 キム・スミ自身が「エレベーターの中が惣菜の匂いで充満しちゃうわね」と言っていたように、韓国、とくに地方の母親世代の食のもてなしは、ありがた迷惑と表裏一体だ。バスターミナルでたまに見かけるが、休暇で実家に帰った軍服姿の兵士が重そうな風呂敷包みを持っていたら、母親から惣菜を持たされた可能性が大きい。

 今回はキム・スミの出身地、美食の里として知られる全羅道(チョルラド)のなかでもとくに海産物が有名な南部エリアの美味しいものを紹介しよう。

滋養豊かな魚介を産する全羅道南部の海

全羅南道の名物、ヨンポタン(手長ダコのスープ)

 全羅道の南部、行政区分では全羅南道(チョルラナムド)の食べ物というと、ナクチ(手長ダコ)を思い出す人が多い。映画『熱血男児』(2006年)でもヤクザの主人公(ソル・ギョング)がソウルから車で全羅道の南部に入るやいなや、「手長ダコを一度は食べなきゃ」と、韓国語に通じている人にしかわからない微妙なニュアンスで言っていた。

 日本の人にも食べやすいのは昆布、塩、ニンニク、ゴマ油ベースの淡白なスープで手長ダコを煮たヨンポタン。たいてい手長ダコが丸ごと入っていて、その身がきれいなピンク色に染まるので、大変インスタ映えする。

 タコにはタンパク質をはじめ、ビタミンB、カルシウム、タウリン、血中コレステロールを下げる不飽和脂肪酸などが多く含まれているので、美容食、健康食としても人気だ。

全羅道の南部、霊岩で食べたヨンポタン

■『ナルコの神』に登場した珍味グルメ、ホンオエイ)料理

 Netflixドラマ『ナルコの神』で主人公(ハ・ジョンウ)が南米から輸入しようとしていた食材がホンオ(エイ)だ。韓国では珍味といわれるが、全羅道では宴会に欠かせない食材のひとつ。日本のテレビのバラエティショーでは世界三大悪臭料理のひとつなどとゲテモノ扱いされたりしたが、食べ慣れるとその美味しさとむせるような揮発性の刺激のとりこになるだろう。

エイの切り身を蒸し煮したホンオチム

 エイにはホンオフェ刺身)、ホンオチム(蒸し煮)、ホンオタン(鍋)などの食べ方があるが、最初に食べるならホンオチムがおすすめ。加熱したエイ特有の揮発性の刺激は強くなるが、身がやわらかくなるので食べやすい。刺身だと身と軟骨をいっしょに食べなければならないが、蒸し煮だと骨から身をはずしやすくなる。もちろん軟骨も食べていい。エイには毒素を排出する作用があるので、美肌効果も期待できる。

 エイの刺激に慣れたら、三合(サマプ)に挑戦しよう。エイ、茹で豚肉、発酵の進んだキムチの三つを重ねて食べるもので、全羅道の食べ物のなかでも特別なごちそうとされる。マッコリとの相性も最高だ。

木浦で食べたホンオ三合。左からエイの刺身、発酵の進んだ白菜キムチ、茹でた豚肉