このたくあんは昔から気になっていた。ソウル在住の知人に話すと、たくあん工場を見学するところまで進んでしまった。

 工場はソウルから高速バスに1時間半ほど乗った青陽(チョンヤン)にあった。工場見学は、こんな説明からはじまった。

「韓国のキムチ市場は1兆8000億ウォンほど。それに対してたくあんは6000億ウォンほどです」

 たくあんはそんなに食べられていたのだ。キムチの3分の1……。キムチには白菜キムチ、カクテキ、ネギキムチなど種類が多い。しかしたくあんは1本勝負である。目にする回数は多くなる。韓国をキムチ国家という人もいるが、実はたくあん国家ではないかと思えてくる。

 たくあんの材料になるダイコンにはいくつかの種類があるが、たくあんには日本の品種が向いているらしい。韓国の品種は丸くて太い。カクテキには向いているが、たくあんには向かないという。

 たくあんはもちろん日本がもち込んだものだ。韓国人のなかには、「日本が残したもので、よかったのはたくあんだけ」と口にする人もいるほどだ。つまりルーツも日本なら、いまも日本品種で日本風につくられていた。

 だが韓国人にしてみると、日本のたくあんと韓国のたくあんは微妙に違う。工場の責任者はこう説明してくれた。

「日本人にとって、たくあんは純粋に漬物です。しかし韓国人は、パリッとした歯ざわりを好む。あえていえば、欧米のピクルスに近い感覚でしょうか。味も酸味と甘さが、日本のたくあんより強いと思います」

 そういわれると、少し違う気もするが……。

 中国の炸醤麺をアレンジしたチャジャンミョンは定着していった。添えられる小皿には、日本のたくあんをアレンジした韓国風たくあん。僕がよく食べるチャジャンミョンは、そういう料理だったのだ。

うどん店にて、うどんとキムパム。小皿でたくあんがつく 撮影/中田浩資