■瀛州市場から南浦洞、チャガルチ市場へ

 駅前の中華&ロシア人街を抜け、年季の入った雑居ビル1階にある瀛州(ヨンジュ)市場を通る。市場と言ってもカウンター主体の屋台風食堂がひとつの空間に7、8軒集まっているだけなのだが、この風景は2000年頃とほとんど変わっていない。

 メニューはククス類とキンパなど。20年くらい前はピビムタンミョンという春雨のピビムが人気だったのだが、いつのまにかメニューから消えていた。

北側の入口から見た瀛州市場の風景

 瀛州市場を抜けたところから南に延びている道には、日本時代の長屋の建物が連なっている。ここも大きな変化はない。ソウル旧市街と比べると釜山旧市街の再開発スピードはゆるやかなのかしれない。

 チョン・ウソン主演の囲碁映画『神の一手』(2014年)の続編に当たるクォン・サンウ主演映画『鬼手<キシュ>』(2019年)に、この辺りが映っている。

瀛州市場を通り抜け、日本式長屋の残る通りを100メートルほど歩いて振り返る。風情ある大衆食堂が軒を連ねている

 パク・チュンフンアン・ソンギ主演『NOWHEAR~情け容赦無し~』が撮影された「四十階段」を左手に見ながら東光洞の印刷屋通りを歩く。下町風景は3年8カ月前と変わりなかったが、3階建てくらいの雑居ビルをリモデリングしたプチホテルが数軒オープンしていた。

 じわじわっと釜山が心と体にしみ込んでくるようだ。3年2カ月ぶりの韓国をこの目で見、空気を肌で感じることに集中してしまうため、あまりカメラを構える気になれない。

 右手に釜山タワーを見ながら南下する。龍頭山のふもとに「映画体験博物館」なるものができていた。入口脇には代表的な釜山映画『国際市場で逢いましょう』の主人公(ファン・ジョンミン)の顔の絵看板がある。

 釜山映画と呼べる作品としては他にユ・オソンチャン・ドンゴン主演『友へ チング』、チョン・ウソン&オム・ジウォン主演『トンケの蒼い空』、チェ・ミンシクハ・ジョンウ主演『悪いやつら』、ソン・ガンホ主演『弁護人』『麻薬王』、ユ・アインキム・ヘスクチョン・ユミ主演『カンチョリ オカンがくれた明日』などがある。

 70年代から80年代、男性天国と呼ばれた観光ホテル街を抜けて、南浦洞に達する。大通りの脇で、2015年頃は “韓国版かけそば” チャンチククスを2000ウォンで出していた店が健在だった。値段は倍の4000ウォンになっていたが、しかたあるまい。今の物価を考えたら良心的である。

2000ウォン時代のチャンチククス(2015年撮影)