ソウルの路地裏にあるホンオフェ専門店に入った。店は住宅のような一軒家だった。
ホンオフェはガンギエイを発酵させた料理のこと。エイはサメ系の魚で、発酵させると強烈なアンモニア臭がする。
その理由は、軟骨魚類と呼ばれるサメ系の魚に共通した体の維持機能にあるという。軟骨魚類はアンモニアを体内で尿素に変えて溜め込み、体液や血液の濃度を高めている。こうすることで海水のなかで生きることができる。マグロやタイなどの硬骨魚類との違いだという。いってみれば、オシッコを排出せずに溜め込むことで生きているわけだ。
そのサメ系の魚が捕獲されて死ぬと、尿素がアンモニアに戻り……ツンと鼻腔に届く刺激臭を発するわけだ。
■エイを発酵させたホンオフェのおいしい食べ方は? ポッサムとキムチと一緒に、マッコリにも合う
ホンオフェはガンギエイというサメ系の魚を発酵させているから、アンモニア臭が強い。ところが韓国ではこの料理が存在感をもっている。とくに女性が好んで食べるとういう。
「ホンオフェの味が好きなんですか?」
一度、韓国人女性に訊いたことがある。
「臭いけど体にいいから」
韓国の女性たちは体のためにホンオフェを食べるようだった。ある種のデトックス効果があり、肌もきれいになるという。
しかし強いアンモニア臭……。
ところがテーブルには、においを発する発酵ガンギエイと一緒にポッサムという茹で豚肉が出てきた。
「ガンギエイとポッサム、そしてキムチを一緒に食べるんです。そうすると、ガンギエイの臭みが消えますから」
ホンオフェの料理を前にしてそんな説明を受けた。
本当だろうか。発酵したガンギエイはかなりのアンモニア臭を放っている。そのにおいを茹でた豚肉が消す?
半信半疑だったが、いわれるままに、ガンギエイを2枚のポッサムで挟み、白菜キムチを添えて口に運んでみた。口に近づけると、やはり臭い。ぐっと息を止めて口に放り込み、噛んでみた。
「……ん?」
どういうことだろうか。刺激臭が消え、発酵ガンギエイにしびれることもなかった。なんだか優しい料理に変身してしまった。
上海ではじめて発酵ガンギエイを食べたときは、そのまま口に放り込んだ。茹で豚はなかった。口のなかでアンモニア臭は爆発し、強いしびれが口中に広がった。「いったいこれはなんなんだッ」と叫びたい気分だったが、ポッサムと一緒に食べると、魔法にかかったようににおいは薄まり、しびれることはなかった。
ポッサムにはこんな効果があったのか。こうして食べれば苦しさから解放され、発酵ガンギエイはポッサムと絡まり、キムチの適度が辛さが重なって、絶妙な料理になってしまう。こんな食べ方を韓国人はどう発見したのだろうか。韓国人は豚肉の食べ方の天才ではないかと思えてきた。