束草(ソクチョ)の宿で食べて以来、トトリムクはときどき食べていた。知人の家で飲み会があると、よくコンビニで買って持参していた。その家でネギを刻み、醤油をかけると、冷ややっこのような感覚で食べることができた。ソジュに合うつまみだった。
あのトトリムクがソウルの店からも消えつつある。たしかに時代には合わない味かもしれない。素朴といえば聞こえはいいが、あまり味はしない。舌触りはいいが。そのあたりは冷ややっこに似ていたが、「おいしい!」と声が出るような料理ではない。
ロッテデパートの地下食品売り場で、一応は手に入れたが、やはりちゃんとした店で味わいたい。
ネットで探した。明洞駅から南山に向かって坂を登ったところにある「モンミョッサンバン」という店がみつかった。漢字で書くと木覓山房である。
しゃれた外観の店だった。こんな店にトトリムクはある? 店に入ると、大型のタッチパネルがあった。ここでオーダーするらしい。そこにあるメニューに目を凝らす。ちゃんと日本語も書き添えられていた。
「あった」
──どんぐりこんにゃくの和え物と野菜和え。
どんな料理なのか想像もできなかったが、「どんぐりこんにゃく」である。トトリムクである。
パネルをタッチした。