釜山は日本植民地時代(1910年~1945年)に都市らしくなっていったものの、それ以前は地方の漁村のひとつに過ぎなかった。1950年に朝鮮戦争が起き、共産主義を嫌った人々が半島北部から避難民として大量に南下し、釜山の人口は爆発的に増加した。

 その時代の空気は映画『国際市場で逢いましょう』でよく描かれている。ファン・ジョンミン扮する主人公がまさにその避難民だった。言ってみれば釜山はよそ者だらけの街なのだ。人と人とは違ってあたりまえという意識があるため、エリート意識の強いソウルや保守的な大邱などと比べると排他主義が弱く開放的と言われている。

 人情味のある(ありそうな)旅館女将は、実際に釜山出身のカン・マルグムのハマり役。20代後半まで釜山で暮らしていただけに、修羅場のシーンでの方言も迫力満点だった。

 カン・マルグムは、映画『チャンシルさんには福が多いね』での失職した映画PD役をはじめ、『イカゲーム』ではイ・ジョンジェ扮する主人公の元妻、『赤い袖先』では2PMジュノ扮するイ・サンの母親、『良くも、悪くも、だって母親』ではアン・ウンジン扮する娘を熱く想う母親、『離婚弁護士シン・ソンハン』での気のいいラーメン屋の女将など、もともと喜怒哀楽の表現の豊かさには定評がある演技派女優だ。

『おつかれさま』序盤、エスンの母に扮したヨム・エランに次ぐ陰の功労者は、まちがいなくカン・マルグムだろう。

●配信情報

Netflixシリーズ『おつかれさま』独占配信中

[2025年/全16話]演出:キム・ウォンソク『ミセン ー未生 ー』『シグナル』『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』 脚本:イム・サンチュン『サム、マイウェイ〜恋は一発逆転!〜』『椿の花咲く頃

出演:IU『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『ホテルデルーナ〜月明かりの恋人〜』、パク・ボゴム『雲が描いた月明り』『青春の記録』、ムン・ソリ私たちの人生レース』、パク・ヘジュン夫婦の世界』、オ・ジョンセサイコだけど大丈夫』、ヨム・ヘランマスクガール』、ナ・ムニ怪しい彼女』、イ・ジュニョン恋するムービー