Netflixドラマ『隠し味にはロマンス』は、母が経営するソウルの大手食品会社の跡目を実兄と争っているハン・ボム(カン・ハヌル)がひょんなことからモ・ヨンジュ(コ・ミンシ)が切り盛りする地方都市・全州の路地裏食堂再興に手を貸すことになるドラマだ。

 序盤の第3話には見どころが2つあった。ひとつは、ソウル風を吹かしていたボムが全州になじみ、角が取れ、ヨンジュとのあいだに少しずつロマンスの気配が生まれる描写。もうひとつは地方が舞台のドラマならではの田舎の風物の描写だ。

■Netflix『隠し味にはロマンス』の隠し味は、出演者の全羅道訛り

 このドラマに地方らしい味わいを添えているのが登場人物の訛りだ。なかでも、コンナムルクッパの店からヨンジュの店に移ってきたミョンソクは、演じているキム・シンロクが全羅道出身で高校まで光州にいたので訛りは本物である。

 全州は地図で言うと韓国の下半分左側の全羅道北部、全北特別自治道の中心都市だ。下半分右側の慶尚道釜山サトゥリ(訛り)をはじめとする独特の方言があるように、全羅道にも方言がある。

 方言の特徴を文字で表すのは難しいが、慶尚道が剛なら全羅道は柔。言葉の語尾をよく聞くとわかるが、語尾が「ィィン」と粘っこくのびるのが特徴だ。また、「どうしよう?」というニュアンスで使われる「オッチェスカィィン」といいう言葉を多用するのも全羅道人らしさである。

 実際に全羅道出身で劇中でも訛りをよく使った俳優というと、まずは昨年亡くなったキム・スミを思い出す。彼女は全州の西方向位置する港町、群山(クンサン)の出身だ。男性では、名バイプレイヤー、パク・チョルミン(光州出身)が印象的。光州民主化運動をテーマとした映画『光州5.18』では本物の訛りを聞かせてくれた。

 最近では、百想芸術大賞放送部門の助演女優賞を『おつかれさま』で二連覇したヨム・ヘラン麗水出身)が、前年の受賞作『マスクガール』第3話冒頭のナレーションやセリフで、全羅道らしいイントネーションをたっぷり聞かせてくれている。

 また、歌手ではなんと言っても東方神起のユノ(光州出身)が有名だ。ファン・ジョンミン主演映画『国際市場で逢いましょう』では、木浦(モッポ)出身の実在の大物歌手ナムジンに扮し、本物の全羅道訛りを披露している。

『隠し味にはロマンス』でミョンソク(キム・シンロク)が勤めていたという設定のコンナムルクッパの店は、全州に実在する「ウェンイチプ」で撮影されている
『隠し味にはロマンス』にたびたび登場する大衆ビアホール