ソウルの日本人にとっての人気エリアは、明洞から江南へ移りつつあった。かつては明洞が日本人だけでなく、外国人観光客を一気に引き受けていた。言葉の問題が大きかったといわれる。明洞の飲食店には日本語のメニューがあった。店員はうまい日本語を操った。日本人や外国人めあての店が集まっていた。
しかし韓国の人たちの間で江南の評価があがっていく。富裕層も暮らすようになり、韓国ドラマのロケ地としても登場し、人気の店も出店していく。言葉の問題はネットネット普及が解決の方向を導いていた。
■ソウルの人気エリア、江南で食事するならどこがいい?
江南は南北にのびる江南大路に沿って広がっている。繁華街は地下鉄江南駅周辺からはじまる。
北上していくと、シンノンヒョン(新論●、●の漢字は「山」へんに「見」)駅。ノンヒョンとつづく。全体が江南といってもいいのだが、そこを細分化していくと、シンノンヒョン駅の存在感が増してくる。
仁川国際空港から空港鉄道(A’REX)に乗り、金浦国際空港で地下鉄の9号線に乗り換えると、明洞に行くよりスムーズの乗り換えることができた。その9号線が着くのがシンノンヒョン駅だった。日本人にとって、交通の便がいいことはポイントが高いが、ソウルの人々は別の意味でこの駅をとらえていた。江南で働く男性がこういった。
「会社が絡んだ食事や、同僚との飲み会はだいたいシンノンヒョン駅の近くですね。江南は焼肉屋ばかりの通りがあったり、イタリアンとか、どちらかというと外国人を意識した店が多い。でもシンノンヒョン駅の周りは違う。私たち向けの店が多いんです」
日本人の30代女性は、今年はじめてソウルに行った。会社の同僚と一緒のふたり旅だった。泊まったのは江南。
「ネットでいろいろ見ました。ソウルの人たちが食べているものを食べたいって意見が一致して、野菜が多い煮込み料理の店を選びました。韓国語を翻訳機能で調べて。江南駅から北へ15分ほど歩いたところにある店でした」
詳しく訊いてみると、シンノンヒョン駅の東側の路地を入ったところにある店だった。
食事をするならシンノンヒョン駅近く……。それは江南のひとつの傾向のようだった。
ソウルといえばチキン料理で知られているが、韓国式炭火焼きチキンの老舗「金剛バーベキュー」もシンノヒョン駅のすぐ近くにある。
ある日の昼、ソウル在住の知人とシンノンヒョン駅近くの飲食店街に向かった。江南大路の東側にある通りに沿って飲食店が集まっている。雨が降る寒い日だった。
とくに入る店を決めず、通りを歩く。そこからのびる坂道の路地にも店がつづいている。いかにも夜の店といった雰囲気の店が多いが、ランチタイムも営業している店も多かった。
「ここは牛肉の専門店で、夜は焼肉とかステーキを出すようなんですが、昼は牛肉スープの定食メニューを出していますね」
知人は店頭のメニューを見ながら教えてくれた。その先に進んでいくと、
「ここはどうですか」
と足を止めた。