■気晴らし3「江原道の東海岸を旅する」
アイスやトッポッキ、ゲーセンでは解消できない大きなストレスにさらされたジョンウは、ひとりポジャンマチャ(テント屋台)でソジュを飲む。日本人にもよく知られている韓国人の典型的なストレス解消法だ。
「朝まで遊ぼう」と元気づけるハヌルに、ジョンウは「それなら東海(トンヘ)に行こう」と誘う。
憂いを晴らしたい。リセットしたい。そんな気分のとき韓国人が行きたがるのが東海だ。
この場合の東海とは韓国北東部・江原道(カンウォンド)の東海岸を指す。街で言うと束草(ソクチョ)、江陵(カンヌン)、三陟(サムチョク)辺りだ。
「♪飲んで歌っても踊っても心は晴れない もがいてももがいても逆風ばかり 今こそ旅立とう 東の海へ 恐れず鯨を仕留めよう」
これは、1970~80年代。軍事独裁政権のときの禁止歌謡「コレサニャン(鯨狩り)」の歌詞の意訳だ。当時の若者たちの閉塞感や、鯨に象徴される「民主化」「自由」を夢見る気持ちを重ねたといわれるこの歌の影響で、私たち韓国人は東海岸に特別な憧憬の念をもっている。
東海岸は高速鉄道やトンネルの開通で、今でこそソウルから2時間ちょっとで行けるが、ひと昔前までは辺境の地だった。遠いからこそ現実を忘れ、日頃のうさを晴らせたともいえる。
映画でも、江原道や東海岸は登場人物がしがらみから解放される場所として登場することが多い。
例えば、ペ・ヨンジュンとソン・イェジン主演映画『四月の雪』では、傷ついた二人が道ならぬ恋に落ちる場所として、辺境の東海岸は似つかわしかった。
チャ・スンウォン主演映画『約束』では、脱北してソウルに来たものの結ばれないカップルが現実から逃れるため束草を一泊旅行した。
また、ホン・サンス監督の『カンウォンドのチカラ』の妻帯者と女子大生は、不倫を清算する気配でそれぞれ別々に東海岸を旅した。同監督の『夜の浜辺でひとり』は、スキャンダルに疲れた女優(キム・ミニ)が江陵で気ままに過ごす話だった。
江原道は人も食べ物も素朴で、手つかずの自然が残っているところだ。憂いがあってもなくても、ぜひ旅してもらいたい。