二軒目は南浦洞に戻って、路地裏の刺身屋に入る。10年前に出した『韓国酒場紀行』という本の取材で訪れた、地元民のためのリーズナブルな店だ。

 ヒラメとタイとブリを肴に韓国製日本酒「清(チョン)」を飲んでいると、また若者二人が店に入ってきた。1軒目のときとは別の子たちだが、やはり「カンマンセ」の宣伝部隊だった。しかし、今回はドリンクをくれないので呼び止めると、

「これは『大鮮』をお飲みの方に差し上げているのです」

 と言われ、笑ってしまった。

 大鮮の会社が出しているドリンクだったのか! 草の根マーケティング、ここに極まれりである。

 三軒目は東光洞の「釜山浦」に向かう。旧市街の酒場のなかでも古株である。ソウルで言えば、仁寺洞の路地裏にありそうな枯れた感じの店で、『韓国の美味しい町』という本の取材で20年ほど前に初めて訪れたと記憶している。

 女将がそこそこの年だったので、店の看板を確認するまで心配だったが、健在だった。いまどきはスマホで店の安否確認ができるのだが、それは野暮というもの。廃業していたらしていたで、ちゃんと店の前でがっかりしたいのだ。

東光洞『釜山浦』の茹で豚、エイの刺身、マッコリ

 私とN氏がエイの刺身と茹で豚でマッコリを飲んでいるあいだ、女将は座敷で中国ドラマに夢中だった。このほったらかし感は20年前と変わらない。大変居心地がよい。

 私「中国ドラマ、おもしろいですか?」

 女将がケラケラ笑いながら答える。

「これはドラマなんかじゃない。マンガだよ、マンガ」

 それでもこの女将、客が店を出るときはしっかり入口で見送ってくれるのだ。(つづく)