南浦駅から地下鉄に乗る。照明がすべてLEDに変わったのだろうか、車内がやけに明るい。ソウルと比べるとどこか薄暗ったかったひと昔前の釜山が懐かしい。チェ・ミンシク&ハ・ジョンウ主演映画『悪いやつら』や、ソン・ガンホ主演映画『弁護人』はそんな往時の釜山の空気をよく伝えている。
東横INNでチェックインを済ませ飲み歩きに出かけようとすると、ロビーで若い女性がなにやら販促イベントをやっている。プレミアムマッコリとして日本でも有名な福順都家(ポクスントガ)の試飲会だ。以前からこれを飲みたがっていた相棒が喜んでいる。
書きそびれていたが、今回の旅は私より一回り以上若いN氏がいっしょである。往路の船旅(大阪~釜山)はツインのベッドがひとつ空いていたので誘ったら、酒も強くないのにほいほい乗っかってきた軽率な(ホメている)男である。
■釜山の飲食街にて、焼肉、刺身、エイでハシゴ酒
久しぶりの韓国の旅は平凡なものにしたくない。そんな思いが強かったので、釜山駅から地下鉄で5駅西に行った東大新洞に向かう。観光客の集まるエリアから離れていて、駅前には地元民のための市場やモクチャコルモク(飲食街)があるのだ。
狙いはティッコギ(直訳すると裏肉)。内臓ではないがサムギョプサルにもモクサルにもなれなかった、いわば端肉である。釜山の西の金海には食肉の解体場があったため、安く提供されるのだ。サムギョプサルが高価になった今ではティッコギこそが庶民の焼肉である。
見た目も歯ごたえも一定ではない肉が焼き上がらぬうちに、「TERRA」ビールや釜山ソジュ「大鮮(デソン)」のグラスを乾していく。この店は、以前、チョン・ウンスクの文庫『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』の取材でふらっと入った店だ。開店30分後もかかわらず席は半分埋まっている。愛想はないが働き者のおやじは相変わらず忙しそうにしていた。
若者が二人、ドタバタと店に入ってきて我々のテーブルの上に栄養ドリンクらしきものを置いて行く。ラベルには「カンマンセ(肝萬歳)」とあり、その下に「飲酒前後に」と書いてある。酒飲みにターゲットを絞ったマーケティングなのだ。デジタル時代にこのような地を這う宣伝が行われているというのも釜山らしくていい。
このドリンクのCFモデルは、KBSで放送中のドラマ『オアシス』にヒロイン役で出演し、日本でも最近公開された映画『非常宣言』で映画デビューも果たした女優ソル・イナだ。