公開から2月16(日)までの38日間で興行収入9億3千万円、観客動員65万人を突破した『劇映画 孤独のグルメ』(監督・脚本・主演/松重豊)を鑑賞した。来月には韓国でも公開されるので、国際的ヒットへの期待も大きい。
多くの人が、劇場を出たら何を食べようか考えながらこの映画をを観ただろう。新たな食べ物がスクリーンに映し出されるたびに、さっきはあれを食べようと思ったが、やっぱりこれにしようなどと逡巡したはずだ。今回はストーリーにはふれず、観る者を忘我の境地に至らしめる劇中の食べ物のいくつかを振り返ってみよう。
■長崎ちゃんぽん
主人公の井之頭五郎さんが五島列島で食べたのは本場の長崎ちゃんぽんだ。筆者は15年前、同じ長崎県の対馬に釜山から船で行き、比田勝港の大衆食堂でちゃんぽんを食べたことがある。大手チェーンのちゃんぽんを食べ慣れた自分の舌にはスープがあまりにもあっさりしていて拍子抜けしたが、長崎県民が週に2回はちゃんぽんを食べることを考えると、これくらいがちょうどいいのかもしれない。
韓国の中華料理店にもチャンポンはある。長崎由来で具材も日本のものと変わらないが、スープが真っ赤で辛さも相当なものだ。チャジャンミョン(ジャージャー麺)と並ぶ二大中華料理のひとつである。
中華料理店が舞台の韓国映画『新装開店』(1999年)には、チャジャンミョンかチャンポンかなかなか決められず、どちらかを頼んでは取り消しを繰り返す客が、キム・スンウ扮する店主から追い出されるシーンがあった。

■貝とキノコと干し納豆の汁
自分がどこにいるのかもわからない五郎さんが、あり合わせの食材で作ったのは貝とキノコと干し納豆の汁だった。納豆はキムチにも負けない主張の強い食べ物なので、貝やキノコとの相性は想像できない。サバイバルのための食事なら、貝だけでスープにするか、ただ焼いて食べるべきだったと思う。
韓国では市中でも、田舎の海岸でも貝料理の店をよく見かける。左手に軍手、右手にトング。客がこのスタイルで焼いた貝は、ソジュの最高のつまみだ。また、大きなハマグリが獲れる西海の港町で早起きして食べた貝汁(ペガプタン)は、筆者の35年間の韓国旅行歴のなかでも屈指の朝ごはんだった。


■蒸し鶏のポッサム
韓国でポッサムといえば豚肉が一般的だ。五郎さんが食べていたようなスライスされた蒸し鶏の単品料理を韓国で食べた記憶はないが、タッ(鶏)ポッサムを看板にした店をソウルで出せば、そのヘルシーさで女性に受けそうだ。
韓国で淡白な鶏料理といえばペクスク(水炊き)やタッコムタン(鶏コムタン)を思い出す。ソウルのホテルPJの向かいにある1969年創業の「ファンピョンチプ」では、ペクスクやタッコムタンとともにタッチム(蒸し鶏)も食べられる。
