韓国でもカキはよく食べる。そしてソウルには、「クルポッサム通り」と呼ばれる路地がある。場所は鐘路3街。飲み屋街の一角だ。
クルはカキ、ポッサムは茹で豚。その路地を埋めているのは、すべてクルポッサムの店だった。
■ソウル鍾路3街、クルポッサム通りで味わう酒飲みのための料理
その一軒に入った。大皿で出てきたのは生ガキと茹で豚。その食べ方を習った。サンチェに茹で豚を載せ、その上に生ガキ。さらに白菜キムチ。好みでニンニクや唐辛子、コチュジャンを加え、全体をサンチェでくるむようにして食べる。
食べ方はわかったが……。頭のなかは混乱していた。生ガキの味と茹で豚の味がどうしても合わないのだ。
迷っていてもしょうがない。クルポッサムを口に放り込んだ。カキはそれほど大きくない。茹で豚はひと口大だ。
「……」
不思議な味わいだった。まず茹で豚の味。茹で豚は塩を加えて茹でているだけだった。豚肉の風味はするが強い味ではない。しかし肉の歯ごたえはある。追うようにしてカキの味が広がった。
しかしカキの味が弱い。ほんのりとカキの風味はするが、苦みも薄い。日本で食べるカキフライの方がはるかにカキの味が濃い。その分といったはなんだが、カキのぷりぷり感が際だってくる。これは茹で豚効果に思えた。茹で豚にはぷりぷり感はない。どちらかというと、じわっとくる。粘質感といったらいいだろうか。その対比のなかでカキが浮きたってくる。しかしそれぞれの味はけんかもしない。なんとなく収まっている。
以前、カキのチャウダーというものを食べたことがある。どこだっただろうか。関西のどこかの街のレストランだった気もする。
チャウダーといえば、一般的にアサリを使う。僕はこの料理が好きだ。冬にアメリカやカナダにいくと、必ずといっていいほど、市場の食堂に向かう。そこには必ずクラムチャウダーがある。料金も高くない。
ネットで検索すると、クラムチャウダーのクラムは二枚貝のことで、日本のハマグリに近い貝を使うことが多いという。
バンクーバーの市場で食べたクラムチャウダーの味はいまでも覚えている。寒い季節。市場の食堂はそれほど温かくない。そんな体にクラムチャウダーは染みる。パンとの相性もいい。
そんな感覚でカキのチャウダーに期待したが、なんだか味がすごく濃くなる感じがした。ハマグリ系の貝に比べればカキは濃厚なのだろう。そこに火を通すと、その濃さが際だってくる。
クルポッサムはその逆をゆく食べ方だった。カキは生。カキの濃厚さを抑えて食べる料理。そこに茹で豚が一枚かんでいる気がした。